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情熱のかけらの記録

6BQ5プッシュプル/真空管パワーアンプ

6BQ5/PP(Triode Connection/5W+5W)  2011年9月製作(完成)~備忘録~

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昨年ヘッドホンアンプ(プッシュプルのやや大げさなもの)を製作したのですが、ハムノイズが残って取り切れず使用頻度も低くなっていました。AKG K601(120Ω)ではほとんどハムは聞こえないのですが、50Ω以下のヘッドホンでは、気にすると余計に聞こえてしまうようでいけません。FETでリップルフィルタを追加したり、ヒーターの直流点灯回路を改造したりジタバタしましたが、シャーシレイアウトやサブシャーシの使い方にも問題ありそうで、いつか作り直そうと思っていました。

ところが夏の猛暑と節電で眠れぬ夜に読み返した古いMJ誌の5万円アンプ特集、『一丁挑戦してみるか!』と突然思い立ち、お蔵入りアンプを分解して出力トランスを流用したのが、この6BQ5/PPアンプです。ストックパーツを使って実費は5万円以下でしたが、新規に全パーツ揃えれば塗料類や真空管も入れて6万円程でしょうか。それでも音は予想以上に良く満足度の高いものになりました。

[ 回路図 ] [ 実態配線 ] [ レイアウト ] [ パーツリスト ]
※いずれもPDFファイルです。

MT管プッシュプルアンプ

 実は、MT管のプッシュプルアンプは他にも持っていて息子が使ってます。こちらは(旧)DAREDというメーカー製で "PHENIX VP-10 PLAN 2000 Collection EDITION" という型番。モノラル構成+電源部も別で3つの筐体に分かれたデザインに惹かれてゲットした綺麗な中古品でした(定価は12万円だったらしい)。チャンネルあたり5670が2本+EL90(6P1)が2本+EM80(マジックアイ)が使われているのですが、ネットで探したDAREDのVP-10では、5670ではなく12AX7+12AU7の構成のものしか見つかりませんでした。このアンプはさすがの中国ギミックで、マジックアイがグリーンに光って意味も無く美しいのでした(笑)。

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しかし、いざ鳴らしてみるとハムノイズがかなりあります。能率98dBの自作アルテックスピーカーでは聞くに堪えず、使用予定だった能率85dB程度の自作ダブルバスレフでさえもそれなりにノイズが聞こえる状態でした。(これで製品なのか!?と少し怒りモードで)たまらず中を開けて修理しようとしましたが、基盤を使った回路のうえ筐体も窮屈で改造しにくい。結局、ハムの原因がアースループらしいとわかり、入力トランス(TAMURA TK-135/ライントランス)を挟んで使うようにしたら、ハムがピタッと治まりました。5670を396Aに替えているのですが、音の方は結構気に入っていてMT管プッシュプルの良さを再認識したのでした。

ところで、このアンプに付いていたオリジナルの出力管はEL90と印刷されているのですが、9ピンのMT管でしたので実際には6AQ5類似管の6P1ですね。ソケットがMT9ピン用でしたので最初は印刷間違いかと思って、EL84に差し替えて試してみるところでした。何か変だと思いネットで検索して、6P1が9ピンと知りました。ピン数が違うので差し替え可能な互換ではないのですが、音は6AQ5同等に良いようにも思えます。互換でしたらロシア製の6P1P-EVでしょうか。EL90の刻印は格好付けなのか紛らわしいアンプです(笑)

回路とパーツ
手持のストックに396A, 5670W, 6N3Pがありましたので、初段はSRPPとしてP-K分割で直結、6BQ5は音質重視で三極管接続として出力は5W程です。STAXドライバと同様な構成にして短時間で設計したため、6BQ5プッシュプルアンプとしては、どこにでもありそうなオーソドックスな回路です。6BQ5は自己バイアスでカソード抵抗も簡単に共通としました(カソード抵抗は共通にせずに各ユニット別に抵抗とコンデンサを分けた方が幾分ユニットのばらつきに強くなるようです)。

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回路が平凡なのでパーツは少し吟味し、興味があったロシア製のオイルペーパーコンデンサ(K40y-2)をカップリングに使ってみました。アンプ部の抵抗はほとんどをDALEで揃えました。また初段のカソードバイパスには、SPRAGUEの銀タンタルコンデンサを奢ってます(なんと1個900円也!泣)。

使用した出力トランスは昨年製作のヘッドホンアンプからの取り外し品で、ノグチトランスのPMF-12P-8Kです。8KPP/120mA/12W のハイライトコアで、周波数特性が 10~60KHz (-3.0dB) とのことですので小型にしては優秀なスペックです。スピーカー端子には8Ωと4Ωだけ出しました。ちなみにスピーカー端子は4Ωは金メッキですが、8ΩとCOMはロジウムメッキです(ちょっと贅沢!笑)。

電源回路

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B電源は290V端子を使い、6BQ5のプレート電圧が300V程度になるようにして初段、P-K分割段へ配分。出来上がりはほぼ設計どおりでしたが、6BQ5はチャンネルあたり45mA程度の見積もりでした。今回は整流管を使わずダイオードとチョーク、コンデンサを使った簡単な整流平滑です。もしハムが出るようならFETでリップルフィルタを入れようと、2SK3067や抵抗を用意していましたが、コンデンサの容量を大き目したためか、ハムノイズ等はほとんど無くそのままになりました。

電源トランスは、ノグチトランスのPMC-100ではわずかに電流容量が足りない設計見積りだったため、150mAのPMC-150HGを使いました。このトランスはオリエントコアの上級品(?)なのですが、ヒーター巻線を含め電源の余裕があり線材もしっかりしていて良い結果につながったかと思ってます。整流用の高速スイッチングダイオードは、秋月電子で購入したPS2010Rというお安いものですが問題なく使えているようです。

ヒーターはすべて交流点火で、初段SRPPとP-K分割のため5670系の3本にはヒーターバイアスを50V程かけてます。6BQ5はノイズ対策目的でフィルムコンデンサを介して交流的に接地しました。

シャーシ加工

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このアンプはSTAXドライバと同じラックに置く予定で、シャーシサイズや塗装を合わせることは最初から決めていました。トランスの配置は電源からの誘導ノイズ等出ないように注意してレイアウト。シャーシサイズ的にはちょうど良いコンパクトな仕上がりになりました。ちなみに出力トランスとチョークトランスは同一サイズです。今回はシャーシの長辺が前後になるのですが、ラックへの設置の関係で左右6cmに突起する部品を付けられないため、少し窮屈な端子配置等になってます。

なお、使用したシャーシの側面(短辺側)はアルミ接合面が出て安っぽく見えるので、サイドウッドを付けようかとも考えましたが、パテ(手持ちのコンクリートボンドに木工用パテを混ぜたもの)で埋めて段差がないように研磨して塗装しました。これだけで高級シャーシっぽく見えます(^_^);
真空管ソケットの丸孔は油圧パンチャー(φ16mm)でさくっと開け、テーパーリーマでピッタリに拡張。電源トランスの角穴はφ9孔をドリルで4箇所あけて電動ジグソーで切断。角穴は電動ジグソーを使うのが楽で早く正確のようです。
f:id:unison3:20190615185313j:plain底板も付ける予定で、放熱用(吸気)にφ5mmの孔を40個あけてテーパーリーマで拡張整形。毎度のことながら、端子類やネジ用を含めてかなりの数の孔空けとバリ取りで疲れますが、これも完成時の満足のためと思って頑張るのでした。苦労するシャーシ加工と塗装まで終われば、自分的には7割以上完成した気分。後は楽しいハンダ付けです。なお、シャーシには放熱用に6BQ5のソケットサイドに孔を空けているのですが、この球は熱くなるので初段側にも放熱孔を空けておくべきでした。

製作~配線

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配線はいつものように立ラグと平ラグを使った手配線。線材は電源系はダイエー電線(30芯)、アンプ部は22AWGの(MIL)テフロン銀メッキ線を使い、ヒーター配線にはモガミ電線2514、入力からボリュームまでは太めの(MIL)単芯シールドです。いずれもストック品なので色使いは適当。ハンダはよく濡れるKester44です。電源部の配線では、電源トランスのすぐ近くに立ラグを使ってダイオードと6BQ5ヒータの交流接地用コンデンサを取り付け、このラグ板のセンターを菊座金とスプリングワッシャーを使って、ネジ孔近辺をよく磨いたシャーシにしっかり食いつかせ、一つ目のアースポイントとします。

シャーシアースのポイントは、こことアンプ回路部の集中アース(中央部立ラグのセンター)の2箇所ですが、電源部回路とアンプ部回路のGNDは繋ぎません(繋いでもノイズは出ないようですが)。この方式がとても良い結果で、アースに起因するようなハムは皆無です。というか今回のアンプはとても静かで、試聴に使った小型スピーカー(Monitor Audio Bronze BR1/能率88dB)に耳を付けてもハムノイズやサーノイズ等は全く聞こえません(残留ノイズ測定では入力ショートで0.1mV以下)。夏休みで帰省していた息子にも珍しく感心されたほどです!?(父をナメンナヨってことですな。笑)

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アンプ部の配線は比較的簡単で、シャーシも適度な余裕で特に難しいところはありません。平ラグにパーツを配置しているところは先にラグ単体で部品付けしておけばシャーシに取り付けて必要な結線を半田付けするだけ。

今回の製作ではノイズに特に注意していたため、(お決まりなのでしょうが)ヒーター配線やループNFBの初段部への戻し、ボリュームから初段への結線はGND線とよく撚って配線しました。また、5670系の3つの球の5番ピン(IS)はシールドになっているので、それぞれ立ラグのセンターを使ってシャーシに接地しました。ソケットのセンターピンはアースしないでそのままです。

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ループNFBの負帰還量は-6~10dB程度を目安に安定性と音質の好みで決めました。ここは抵抗値を390Ω~1KΩで試してみるとよいかと思います。
少しだけ後悔したのは、縦型の電解コンデンサ等を付けた平ラグ2枚を、L型アルミ板の両面に固定したのですが、シャーシの深さや電源トランスにぎりぎりで、余裕は2~3mm程度しかなくなってしまいました。L型アルミ板を使ったのは、FETリップルフィルタを使う場合に放熱板としても利用するためでした。よくよく見れば電源トランス周りに余裕がありますので、普通に平ラグをスペーサーで立てた方がスマートでした。

 配線で注意が必要なのが、ループNFBが正帰還になって出力トランスがギャー!と鳴くこと。今回のトランスを使った昨年製作のヘッドホンアンプでやらかしてますので、トランス一次側の結線は回路図(実体配線図)にある色のコード通りに繋ぐ必要があります。

試聴結果

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端整で変な主張のないまじめな音の印象です。低域は十分伸びていて、プッシュプルらしい力強さがあります。高域も突き抜けるように伸びやか。静かなアンプに仕上がったせいか解像度も高く感じます。再生帯域が広く窮屈な感じはありませんし、それでいて中域の厚みもあってボーカルでは真空管らしい押し出し感や艶があります。ストリング系の響きは特に心地よい。シングルアンプのような真空管の主張があまりないのですが、フラットでつまらない音というわけではないですね。とてもいい音で気に入りました。もしかしたら自作の2A3シングルよりも聴き易いかもしれません。 

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試聴に使ったスピーカーは、デジタルアンプで鳴らすとサイズの割には鳴りっぷりもよく悪くはないのですが、特別感動するほどの良さも感じていませんでした。しかし、このアンプでは別物のような響きで、特に中高域の美しさを再発見させられました。真空管アンプの中域の厚みがマッチしているのか、刺激的な音を出さないツィータがいいのかもしれませんね。ちなみに、このスピーカーの公称インピーダンスは6Ωですが、アンプの8Ω端子に繋いでいます。少し真空管に負荷がかかりますが、4Ωで繋ぐと重心が少し下がって低域がやや緩くなり音の立ち上がりやパンチ力も少し劣る感じを受けました。 

使っている真空管ですが、当初WE396Aを初段と位相分割段に試してみましたが、396AはSTAXドライバで選別されて残ったものでしたので、うまく左右chや双極のバランスがとれる組み合わせがなく諦めました。5670も試しましたが、結局ロシア製の6N3Pを選別して付けました。12AX7程もある大きめな球ですが、音も見た目のバランスも悪くありません。

6BQ5はあまり使われていない松下の中古品。当初はマッチペアの2組で入手した4本を付けましたが、(特性は問題ありませんでしたが)一本だけ管壁に少し焼けがあったので、右chを同じ松下の別のマッチペアのものと交換。松下の6BQ5は音も良く丈夫な球と聞いていますので、このまま長く使えるかもしれません。

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新しい真空管やオイルコンデンサ電解コンデンサのKXG等を使っているので、エージングで数日間は毎日鳴らして安定性を確認。シャーシは結構熱くなりますが、連続6時間以上鳴らしていても全く問題ありません。20数時間後には音もこなれてきたようで、低音の量感や音場感が良くなってきました。6N3Pの響きのやや硬い感じもとれてきて(少女から淑女に変わる感じ!?)、GoviやVicente Amigoのギター、Coltraneのサックスが、こんなにいい音で出るのかとBR1を見直しました。

このアンプは2011年8月初旬に思い立って、9月中にサクッと製作完成したものです。今年は東日本大震災での実家等の被災や妻の病気などもあって重苦しい夏でしたが、このアンプで少し癒やされました。