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情熱のかけらの記録

TDA7498 Dual Stereo (4ch) Power Amplifier ~ トランス電源版

(TDA7498 Dual Stereo (4ch) Power Amplifier トランス電源版)2020年6月製作(完成)~備忘録~

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昨年製作した TDA7498×2のパワーアンプ ですが、(お安いアンプ基板でしたが音が良いので) スイッチング電源ではなく電源トランスを使ったものに換えたらどうかと思い、年明け早々にトロイダル電源トランスを入手していました。しかし電源一体でのケースをどうしたものかと思案して、なかなか改造製作に着手できなかったのですが、春頃に中古のジャンクアンプ(2Uタイプの4chアンプ)をゲットしてケースに代用し、ようやく改造が完了しました。

今回の改造は先に製作の TDA7498アンプ基板 を若干改造した程度で使い、トランス電源で同一筐体にケーシングしたものです。作業のほとんどは電源部関係の製作とケースシャーシ加工+入出力部品の配線です。ケースは 482×352×88mm の2Uラックマウント型で内部は余裕があると思っていたのですが、大部分を電源トランスと電源関係基板等で占領されました。アンプ基板2枚は申し訳程度にちょこんと小さく鎮座しているのでした(笑)。出来上がりは電源トランスのせいもあり重量のあるアンプに変身しました。完成後の音はスイッチング電源に比べて一段と滑らかさが増したようで、雑味感のないクリアな出音です。バイアンプ&バイワイヤリングで試聴していますが、高音質でとても気に入っているのです。


[ 機能構成 ] [ 電源回路 ] [ アンプ基板電源部 ] [ Power On Delay回路 ] [ レイアウト等 ]


電源部回路

使用した電源トランスは Scandinavian Transformer製で、1次:115VAC×2, 2次:24VAC×2/300VA (150VA×2) の容量のものです(お値段は税別7,500円程)。1次側は100Vで使いますので、2次側の出力はそれぞれ約22V程度でした。これをショトキバリアのブリッジダイオードで整流し約30VDC/3.8Aでアンプ基板に供給しています。整流後はコンデンサによる平滑のみで安定化はしていません。LM338を2段で使った 定電圧化の回路 も検討しましたが、大きめなヒートシンクの追加を考えるとケース組み込みが窮屈になり、また出力電圧も24V(8Ω/45W)程度になるため採用しませんでした。

平滑回路では(気休め程度のリップル対策ですが)1Ω/5Wのセメント抵抗をパラで使って1段だけΠ型にしています。また、ブリッジダイオードの交流端子には以前から興味があったアモビーズを付けてみました。平滑用のフィルタコンデンサ容量は、電源基板内で計20,800μFです。アンプ基板の電源フィルタも4,000μF実装されていますので、合計では24,800μFになります。アンプ基板内の電源フィルタコンデンサはオリジナル(35V耐圧)から50V耐圧品に交換し、基板裏の電解コンデンサ端子にも0.01μF/50Vのチップコンデンサを追加しました。

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設計では1つの電源トランスの2次側2系統で2つのステレオアンプを駆動し、(疑似)4chアンプとして2-WAYスピーカーのバイアンプ駆動も想定していましたので、電源トランスの出力電圧が2系統でどの程度一致するか少し心配でした。回路自体は全く同一ですが、使っているパーツが異なりますので、抵抗は購入品+手持ち品から選別しました(アンプ基板自体は先の製作時と運用状態のチェックから2枚とも気になる程の出力差はありませんでした)。電源基板の完成後や全体の完成後に2つのアンプ基板への電源供給状態を測定しましたが、幸い2次側2系統の出力電圧はよく揃っていました。実聴では(クリック付)ボリューム位置を4chで一致させた場合、中心音源のセンター定位も良好でした。


突入電流対策 (Inrush Current Limiter)

電源フィルタ容量が24,800μF程度でさほど多くないので迷ったのですが、リレーが余ることもあり念のため電源ON時の簡単な突入電流対策を組み込みました。いわゆる"Inrush Current Limiter"というものですが、電源トランスの1次側、あるいは2次側いずれにも実装できます。今製作は電源トランスの2次側でブリッジ整流前のところにメタルクラッド抵抗と遅延リレーを使った回路を挿入しています。電源ON直後には抵抗によって少しだけ電流制限し、遅延時間後にリレーが導通して抵抗をパスする仕組みの単純な回路です。

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後述のMUTEによるポップノイズ対策と共に、遅延リレーを2回路分使えば1つのステレオアンプ動作を賄えますので、手持ちで余っていたスピーカー保護基板(ステレオ用を2つ)を流用しました。このスピーカー保護基板は、電源ON後3秒程の遅延時間でパワーリレーが接続されるものですが、スピーカー出力の+端子のみ接続・開放できて、-端子側は常に導通している回路になっています。

使われているパワーリレーは1cタイプですので、ステレオ用の基板には2つのパワーリレーが実装されています。リレーの接点容量が定格10A/250VAC, 12A/120VAC (15A/Max)ですので、22VAC程度の電源導通制御に使っても大丈夫だろうという見込みでした。なお、この基板には オフセット検出回路 も組み込んでありますが、今回は使いませんので回路自体は無効化してあります(またTDA7498のようなアンプICではオフセット検出は使えない)。

遅延リレー基板(スピーカー保護基板)には2種類のLEDがあり、LED1は電源ONと同時に電源OFFまで点灯します。LED2は電源ONで点灯しますが、リレーが駆動されると消灯しますので、突入電流制限の状態またはMUTEによる出音プロテクト状態の確認に便利です。この基板への電源は、主電源トランスとは別に、12V/0.8Aの電源トランスを使っています。簡単な整流・平滑で12VDCを2つの遅延リレー基板に供給していますが、使っている電解コンデンサの容量を小さめにして、電源OFF時のMUTEを即時にできるようにしてあります。


ポップノイズ対策 (Mute Control)

電源ON/OFF時のポップノイズ対策は、先の製作同様、アンプ基板に出ているミュート端子にヘッダピンを立てて制御しています。ミュートコントロールは、突入電流対策で使う遅延リレー基板にある未使用のパワーリレー(回路図RY12/RY22)を使っていますので、ミュート解除のタイミングは、電源ON後の約3秒経過時点で、突入電流制限が解除されるのと同じタイミングです。ミュート端子への配線は、基板裏のリレー接点の足と直にハンダ付けです。通常のスピーカー保護接続とは逆で、電源OFF状態ならミュート端子がショート状態、電源ONで遅延時間後にミュート端子がオープンになればいいわけです。

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今回の製作でも、結果として電源ON/OFF時のポップノイズは皆無になりました。特に電源OFF時のポップノイズに関しては、フィルタコンデンサ盛りだくさんの主電源とは別の電源で遅延リレー基板を駆動しているため即断ミュートが効いている感じです。前製作での μPC1237遅延リレー基板 では、電源OFF時にわずかにプチッと鳴ることがありました(遅延リレー回路駆動電源とアンプ電源を共用していました)。なお、スピーカー出力はアンプ基板からスピーカーターミナルに直結でリレーは使いません。


ケーシングと入出力接続

今回は電源部一体でケーシングし直しました。使ったケースは1,000円でオークション落札した、外見がまずまず綺麗なジャンクの "JVC PS-A1504D デジタルパワーアンプ" です(価格198,000円 税抜き)。このジャンクアンプは内部基板もかなり綺麗で、あまり使ってないのかと疑いましたが、4chのうち2chはプロテクトがかかってしまい音が出ないものでした。

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※ケースに流用したオリジナルの JVC PS-A1504D (4ch) デジタルパワーアンプ

入手当初、修理できるか基板を観察してチェックしてみましたが、表面実装パーツが盛り沢山のうえ回路図もないので諦めました。結局、使えそうなパーツや立派なヒートシンク等を取り外して分解。入力端子もユーロブロックでしたので、後板をくり抜いてRCAジャック入力用にアルミ板で端子取付加工をしました。スピーカーターミナルもオリジナルは撤去し、アルミ板外付けで中型のターミナルを付けました。

重いトロイダル電源トランスは、重量配分を考慮してケース中央部に設置しました。また、鉄製のケースは底板に通気用のスリットが入っているため、アルミ板で底面シャーシを追加しました(製品自体には底面シャーシはなくスペーサで基板直付けでした)。電源トランスは高さや重量の関係でケース底面に直付けするため、300×200×1mmの市販アルミ板を2枚使い、中央に円形の切り欠きが出来るように加工しました。ケース底面からは7mmの真鍮スペーサーでシャーシを支えています。

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入力のAC100Vはヒューズや電源スイッチへの配線を経由して3系統に分配配線するのですが、大電流でも大丈夫なようにしようとすると面倒です。今製作では、10端子(5列中継型で各端子列の定格15A/600V)の端子台を2つ使って、スパークキラーを含めてまとめました。ちなみにヒューズケースは車輌用等のプラスチックケースタイプです。電源スイッチはケース付属のオリジナルを交換して、より接点容量の大きなもので両切りタイプにしています。

今回のアンプは流用したケースに合わせて、ボリュームも単連のもの4つにしました。4ch別に入力レベルを調整できますので、バイアンプ&バイワイヤリング駆動時にはLow/Highのバランス変更もできて遊べます。用意したのはALPSの27型ミニデテント50kΩ(A)でクリック感のあるタイプ。

TDA7498の入力抵抗値が60kΩ(Typical)とすれば、本当は20kΩ位がいいかなと思っていたのですが、手頃な価格で良いものがなかなかありませんね。東京コスモス電機の "RV-24YN20SB (20kΩ/B)" も検討したのですが、クリックありの方が4chでボリューム位置を揃えやすいかと思ったのでした。

後部RCAジャックからボリュームまでは配線長が結構ありますので、単芯同軸の "Mogami 2964" を使いました。このケーブルは静電容量が57pF/mと大変小さく、高音域が綺麗によく伸びます。アンプ基板からスピーカーターミナルへの結線には "Belden 8460" を使っています。また、前作同様アンプ基板のGND入力端子(の基板裏)からシャーシにアースしています。底面アルミシャーシとケースも導通していますので、ボリュームのハウジングもアースされています。

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フロントパネルにはプラスチックのカバーがあるのですが、ここからオリジナルの青いプラスチック製らしいシールを剥がし、LEDが4つのパネルシートを透明保護フィルムが貼れる糊付き用紙で印刷しました(後部のスピーカーターミナルや入力RCA端子のアルミ板も同様)。パネルシートは正確なサイズで印刷できたのですが、ボリュームツマミのφ22のくり抜きが難しく、手作業で切ったため綺麗な円形ではなくやや歪でした。何とも恰好悪いのでサンドペーパーを丸めて磨き整形をしたら、まずまずの仕上がりになりました。

ケース上蓋を被せラックイヤーも付けた総重量では、スイッチング電源方式の PS-A1504D (重量7.3kg) と比べてもかなり増えていますので、ラックイヤーだけでのラックマウントは諦めて、ゴム足を付けて据置型としました。(メーカーの取扱説明書でも PS-A1504D のラックマウントにはオプションの補助金具を使用とも書いてありますな)


ヒートシンク交換 ~完成後に少し改良~(追記)

TDA7498はClass-Dで高効率とは言っても電源電圧30Vで長時間運転すれば、それなりに発熱します。頼りないヒートシンクを大型のものに換えたかったのですが、小さなアンプ基板に手頃なヒートシンクが見つからずオリジナルのまま完成させました。その後も気になって探していたところ、ちょっと大きめサイズで合いそうなものを見つけました。オリジナルのヒートシンク(W50mm×D25mm×H10mm)は、M3ネジ2つで基板に固定されているのですが、25mm以下の奥行きのものでないと、うまく取り付けられません。

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交換したのは M.2 SSD用らしい AINEX HM-23 というヒートシンクで、W70mm×D22mm×H30mm のサイズです。表面積で3倍以上あるので少しは放熱効率も良くなるだろうとの目論見です。問題はどうやって固定するかです。M3ネジ孔を空けようにもヒートシンクの中央にはフィンがあるので貫通できず(貫通させない手もありますが)、結局、1mm厚アルミ板を使って基板底面から挟んで押さえることにしました。

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ヒートシンクとTDA7498の接着には付属の熱伝導両面テープは使わず、サンハヤトの高熱伝導性粘着シート(HF-STRA4) を切って使いました。アルミ板はH型に切り出し、基板底面から両腕で抱えるように折り曲げてヒートシンクを挟んでいます。アルミアングルと基板底面はクッション付両面テープで固定し、押さえ込む腕にもクッション付両面テープを内側に付けています。最後に銅テープで腕周りを固定して完成です。

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出来上がりは、隣の電解コンデンサ(1000μF)よりも背が高く、横幅も基板からはみ出して少しゴツくなりましたが、前後のコンデンサとの隙間はオリジナルより3mm分の余裕ができています。ケースへの設置ではアンプ基板と電源基板の間隔が若干狭く、底面のアングル分の厚さ(アルミ厚1mm+クッションテープ厚1mm)が干渉するため、取り付け用スペーサに7mmのスペーサーを下駄で追加して設置。アンプの動作やヒートシンクへの熱伝導も特に問題なしでした(目出度し!笑)。

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改造後の音の印象 ~まさに匠というか電源改造の出費おお杉!(笑

先の製作では スイッチング電源(24VDC/6.3A×2)でしたが、かなり好みの音で気に入っていました。特に解像感がある柔らかな中高域の伸びやかさはTDA7498侮り難し!の印象でした。トランス電源ですと、冒頭に少し書いたように一段と滑らかさが増したような印象で、雑味感のないクリアで膨よかな良音です。音の傾向はアンプICが同じですのでさほど変わらないのですが、ノイズレベルが良くなっているためか透明感とか静寂感が感じられるようになり、余韻が綺麗に減衰するようで音場感も良くなっているように思えます。中高音域はとてもハイレベルな音質で、低音域も程よく締まって十分な量と力感です。かなり良い音を出すアンプに仕上がったと思うのですが、手前味噌ですかね?(笑) ~以前に製作した Tripath TA2020-020 のアンプを完全に超えてますな~

試聴構成はDACのバランス出力から "(AD812+TPA6120) ラインアンプ" を経由して、シングルエンド(左右2分配)で本パワーアンプに接続し、バイアンプ&バイワイヤリングで2-WAYスピーカーを駆動する方式です。電源のAC100Vはパワーディストリビュータ(ラインノイズフィルタ内蔵)経由でセッティングしました。改造 "ARCAM DELTA 2" との組み合わせでは、”Alex de Grassi" のギターが繊細で膨よかに響きます。ボーカルも艶やかで"Karen Souza"のジャジーな声や気だるげで妖艶な歌いっぷりに痺れました!(彼女の「Smooth Operator - Essentials」は本家Sadeよりも好きですねぇ)。

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トランス電源への変更では、電源電圧も30Vに上がっていますので STMicroelectronics の資料によれば、8Ω負荷で最大出力は約65W程になるようです。前作の24Vですと約45Wですので少しはパワーアップ(力強さ)を感じますが、普段の聴取音量の範囲では特段の出力の違いは実感できませんでした。ということは、私的には45Wでもバイアンプ利用では十分なのですね。

なお、トランス式電源では無音時のホワイトノイズも幾分小さくなるかと期待したのですが、劇的な違いという程ではないようです。スイッチング電源でもゲインを最小の+25.6dB (GAIN=19) にすれば、スピーカーに耳を付けなければ聞こえない程度ではあったのですが、トランス電源では、振幅の乱れが無いような滑らかな小さなノイズになって、さらに気にならない程度になりました。それでも極わずかですがサーノイズはあります。スピーカーからほんの少しでも離れれば聞こえないレベルで、電源ラインや信号ライン由来ではなく、アンプIC (回路) 自体のノイズのようです。このノイズはボリューム位置に関係なく一定です。

f:id:unison3:20200616232053j:plainノイズ解消にはTDA7498の差動入力に合わせたバランス入力での回路設計が最適なように思います。差動入力ICにシングルエンドでの入力が問題であれば、前段にオペアンプを追加して入力インピーダンスをGNDレベルに近くなるよう低く変換する手もありますが、オペアンプの電源もあり実装も面倒です。アンプ基板の設計や表面実装部品等に問題があるかもしれませんしね。音が良いというアンプでも、電源ノイズやハムノイズ、トランス鳴き等のある製品もありますので、この程度なら出音の良さを考えれば不満はありません。低能率スピーカーならほぼ無音になるかもしれませんね。

今回の改造では (お安い) アンプ基板の4倍以上の出費になってしましました。それでも仕上がり具合や音には満足しているので「まぁいいか!」ですな。