(シングルエンド入出力対応)2019年6月製作(完成)~備忘録~
フルバランス入出力対応のヘッドホンアンプです。アンバランス(シングルエンド)入出力もスイッチで切り替えることが出来ます。このアンプは昨年製作したヘッドホンアンプのシングルエンド入力部分(バランス変換)をスッキリした回路にできないかと気になっていたのと、どうせならできるだけ小型筐体で製作してみようと急に思い立って作ったものです。
(アンプ部)[ 回路図 ] [ 電源部 ] [実体配線 ] [ レイアウト ]
※電源部回路図の記述ミスを修正しました。(2021.01.24)
シングルエンド入力のバランス変換
前作同様バランス入力とシングルエンド入力を切り替えられる仕様にしているので、バランス入力とシングルエンド入力で音響パワーを合わせてバランス増幅部に入力したいのでした。
前作では強引にアッテネートしていますが、今回は反転増幅回路を使って、バランス変換の(音響パワー)増幅が変換部全体で約1倍(増幅0)となる回路にしています。バランス変換部は1/2倍増幅で正相、逆相を生成しています。反転増幅の入力インピーダンスと、ちょうど1/2倍になる適当な抵抗値の組み合わせを検討して今回の回路にしています。結果は期待どおりで、バランス入力とほぼ同じ音圧が得られました。(いずれも出力2.0Vrmsの入力信号の場合)
当初は [ この回路 ] で製作したのですが、HOT / COLD 別の変換で通過するオペアンプ数の違いから位相がズレることと入力インピーダンスをもう少し高くした方がいいかなと思い、現在の変換回路(基板)に製作し直しています。音の方は当初の回路でも十分満足していましたし、新回路も同様に気に入っています。
前作のヘッドホンアンプでは、非反転増幅と反転増幅を組み合わせた簡単なバランス変換回路(デュアルオペアンプ2個のみ使用)をわざわざ自作して試しているのですが(DRV134の音に負けてお蔵入り!泣)、同じオペアンプを付けて比べてみても、今回の当初回路や新回路の方が音は良い(好み)です。低域からしなやかに伸びて、高域のピーク感も無く素直な聴き安い音になっています。これならバランス入力じゃなくてもいいかもしれないと思わせます。
この回路(前段)の10kΩと4.99kΩ、47.5Ωは選別して組み合わせました。位相補償コンデンサは33pFで遮断周波数は957KHz程度です。また負帰還ループに容量性負荷分離用の抵抗を含む工夫があります。なお、反転増幅のバイアス補償抵抗は(付けなくても動作しますが手持ちのOPA1622やLME49990等も試すことを想定して入力バイアス電流や入力オフセット電流が大き目なので補償しています)、表面実装品にしたため基板裏に息を止めてピンセット片手で押さえながらハンダ付けしました。歳のせいか目もチカチカするし疲れますね。(^^;;
バランス出力ヘッドホンを初めて試したのは「僕はクロストークが少ない」というキットなのですが、当時はバランス化改造したヘッドホンもなくて、このアンプに合わせて試しにAKG K240 STUDIO を改造してみたのでした。出てきた音が思っていたよりも良かったせいで、バランス出力できるDACが欲しくなり TEAC UD-503 を入手したり、本格的なバランス型ヘッドホンアンプも欲しくなって前作のヘッドホンアンプを製作しました。
この「僕クロ」アンプはその後ケーシングし直して、今でもPCからのシングルエンド出力(バランス出力のないDAC経由等)をバランス出力する変換器(Mini XLR 4 Pin 及び 3.5mm 4極ジャック)として使用できるようになっています。
電源部は [ オリジナルから改造 ] して自作の外部電源(DC12V)を接続してあります。006Pの9V電池での駆動も可能で、ポータブルに持ち出すこともできるのですが、ケースの大きさもあり外で使うことはほとんどありませんね。
今回製作し直したバランス変換回路は、当初の反転増幅で1/2倍にする回路部分と、よくあるバランス化回路の組み合わせなのですが、後段部分は「僕クロ」アンプの回路と同様な構成になっています。
TPA6120A2ヘッドホンアンプ
このアンプICは4~5年前にもヘッドホンアンプ製作に使っています。その時はセレクタ/プリアンプへの組み込み用途で、1つだけ使ってシングルエンド入出力で製作しました。他にも手持ちDACでヘッドホンアンプとして使っている製品がありますので、音質は何となくわかっていましたが、バランス入出力で2個使う回路は今回初めてです。
巷では高音質という評価がありますが、このアンプのみですと少し乾いた音というか爽やかな柑橘系(?)という音色感です。解像感や静けさもあり低域から高域まで伸びていて悪くないのですが、コクというか音の艶やかな厚みが感じられず少し不満でした。
今回使用したTPA6120はMi-Take(美武クリエイト)さんが配布しているキットを利用しています。とても綺麗に仕上がっている基板で、TPA6120A2も2個装着済みなので組み立ては簡単でした。製作では手持ち抵抗の関係で定数を一部変えて、全てDALE RN55D(1/4W, ±1%)の金属皮膜抵抗に変更しています。
音の決め手はTHS4631
このアンプ基板では、TPA6120の前にポストアンプ(2倍の非反転増幅)を置いています。後段が1倍の反転増幅で使うTPA6120です。いわばポストアンプがドライバでTPA6120が出力バッファ的(電流ブースター)です。キット標準ではポストアンプにNE5532が付属していましたが、その組み合わせだと、やはりTPA6120らしい爽やかな柑橘系の音です。最初に音出ししたときの印象は、バランス出力でもやっぱりこんな音なんだなぁ~と。TPA6120の音質が支配的なのですね。
そこでポストアンプというかドライバとしてTHS4631を投入!デュアル化基盤で横幅と背が少し高くなりましたが装着可能でした。発振が心配でしたがこの回路なら安定するはずです。(結果は見込みどおり発振なし)
また、このアンプ基板には(何の説明もありませんでしたが)ポストアンプの負帰還ループに位相補償コンデンサを挿入できるパターン(ランド)がありました(1-2番ピンと6-7番ピンに接続)。現在CFは付けていませんが、波形観測でオーバーシュート等が気になれば3~8pF程度で調整すればいいのかなと思います。
さて、肝心の音ですがこれが激変!支配者がTPA6120からTHS4631に代わって、解像感や音の伸びはそのままに厚みのある艶やかな音質に大変身したのでした。
音の変化はとても大きいです。電流帰還のTPA6120だから後段にあって相性がいいのでしょうか?この音質ならディスクリートの高級ヘッドホンアンプと勝負できるかもしれません。THS4631おそるべし!敬意を込めてヒートシンクの冠を捧げました(笑)。オペアンプ2つで(実際には4つなんだけど)こんなにも音が変わると、他のオペアンプも試してみたくなりますね。
以前にTPA6120を使ったヘッドホンアンプを製作した時に、同じ電流帰還のオペアンプ(ビデオ用のAD812等)を前段に組み合わせたらどうなのかと考えたことがありました。しかしAD812の入手性が悪かったのと電流帰還アンプは使いにくそうで安定性に不安があって製作までは至りませんでした。電流帰還アンプでもフェライトビーズを使った帰還補償の方法がTIから [ 参考情報 ] でありますし、今回のような単純な回路構成ならAD812に替えてもうまくいくと思いますので出音が気になりますね。
なお、THS4631の発熱ですが、室温27~28℃でヒートシンク表面温度が65℃前後になるようです。電圧を下げるともう少し温度も下がるのですが、現在は ±14.8V で試験運転しています。連続5時間程度稼働させても問題ないので大丈夫でしょうが、前作の余裕のあるケースと違い、今回は小型の密閉ケースなので長時間運転には少し不安もあります。(追記:その後電圧を若干下げて±14Vで常用としました。)
前作でも主役はやっぱりTHS4631でしたので、結局このオペアンプとは長く付き合うことになりそうです。(他のアンプ等でも使っていて、通算で20個買ってますが変換基板の換装で既に2個壊してますな)
バランス変換部のオペアンプ
手持ちのオペアンプで音質や安定性を試してみました。最初に OPA2604+OPA1622 の組み合わせを確認。悪くないのですがどうもドンシャリ的で楽曲によっては煩い。
次に LT1169+MUSES 8920D の組み合わせに替えてみると、ちょうどいい落ち着きと解像感です。しなやかさもあり高域も素直に伸びていて聴きやすい。
以上は当初回路での音の印象なのですが、新回路では OP275 + OPA1622 の組み合わせにしました。その他の組み合わせも試しましたが、前段の反転入力は OP275 か LT1469 がいいように思えました。LT1469 と OPA627 や LME49990 だと一段と精細感や音場のスケールアップで超素晴らしいのですが、このアンプは息子に進呈予定なので、そこそこの構成でいいのですな(笑)。
OPA1622 は MUSES 8920 ほどの先鋭的な派手さはないですが、この組み合わせだと何か静かさがあり音も太く聞こえて落ち着いた感じです。音量を上げて長く聴いていても疲れないように思えます。なお、OP275は実は今までみくびってまして、お試しで使った程度でオペアンプケースの肥やしでした。バトラーアンプ型でバイポーラとは違うようですがこのオペアンプいい音ですね。見直しました。
このシングル→バランス変換回路は、前段部分で抵抗の組み合わせによって増幅倍率を1倍以下にも変えられるので、今回のような目的に向いていますね。抵抗の組み合わせでゲインを上げれば、このままでもバランス出力の簡単なヘッドホンアンプになります(DCオフセット調整や安全性のための回路を付加すればもちろんベターです)。
電源部と外部電源BOX
このアンプの電源は、別筐体の外部電源から単電源+15VDCを2系統入力し、±15Vの正負電源に変換して各オペアンプに供給する方式にしています。
外部電源BOXではトロイダルトランスの2次側2系統(各15V/1A)をブリッジ整流していますので、約0.6A程度の最大供給ですが、ヘッドホンアンプ程度なら十分過ぎる電流容量です。
なお定電圧化には一般的なレギュレータではなく、TPS7A4700によるプログラマブル可変電源キット(AE-TPS7A4700/秋月電子通商)を2つ使っています。
超ローノイズということと電圧設定がディップスイッチで簡単なので、LM317/LM337等で可変電源を製作するよりもお手軽なのでした。このような方法でも正負電圧差や変動が少ない良質の正負電源ができます。また、電源BOXとして独立していますので、他の機器にも可変電源として転用できます。
ケーシングや感想等
電源を別ケースに分けることで今回のケースサイズで製作出来ましたが、電源BOX、アンプとも内部はキツキツで余裕がほとんどありません。アンプのケーシングでは少々設計ミスもあり、ミュート回路基板が元々設計の場所(現在のシングルエンド変換基板の位置)に収まらずバランス変換基板の2階に変更しました。本当はバランス入力のバッファ部を追加したかったのですが、どうやっても基板を追加するスペースがありませんでした。バランス入力の場合の入力抵抗をまとめた基盤は、入力セレクタとシールドケーブルで繋がれ固定されていません。小さいのでまぁいいかです。
※オペアンプによる入力バッファ/インピーダンス変換がないのでこの入力抵抗は重要です。音源機器のバランス出力(TEAC UD-503では出力インピーダンス188Ω)を直に接続すると、この10KΩのボリュームとアンプ基板の組み合わせでは中点以上の音量最大位置付近でノイズが出ます。対策として入力抵抗を入れてます。ボリュームを含めた入力部分は、HOT/COLD別に入力インピーダンス10kΩ、出力インピーダンス2.5KΩ(中点)になります。750Ωの抵抗はもう少し小さい方がいいのですが手持ちで適当なものを使いました。
現在のままでも出音に大きな不満はありませんし、前作ヘッドホンアンプのバランス入力と比べてもさほど遜色ありません。今回のアンプは低音の量感もあり中高音の出方がよりストレートです。欲を言えば、もう少しキレのある低音と中高域の柔らかで繊細な響きが出て欲しいと感じます。エージングで変わってくるかもしれませんが、この辺の微妙な表現力は前作アンプが優れているかもしれません。音量を上げていっても音像や精細感のバランスが崩れず聴きやすいのです。逆にシングルエンド入力は低域から高域まで素直な伸びやかさで聴きやすく、今回の製作の方がいい音かもと思えます。
また前作の差動増幅型アンプ(出力バッファが OPA627 デュアルの場合)よりは、今作のような単純な2段増幅型で電流帰還タイプの TPA6120 を出力ドライバに使った方が、ヘッドホン出力も大きくドライブ力を感じます。差動増幅型は力強さというよりも、華奢だけど響きの美しい聴きやすい音色という感じでしょうか。(とはいっても十分な音圧は取れますけどね)
それでも両アンプとも静けさがあり、解像感や音の伸びやかさ、中域の押し出し感、セパレーションの良さを感じますので、私的には十分満足できる音で仕上がりました。このアンプはキット品のアンプ基板を使ったりしていますので、製作は電源BOXを含めて比較的簡単でした。ケースも小さくDCオフセット調整回路等もない単純な構成になっていますが、TPA6120のDCオフセットも1mV前後のためヘッドホンを壊すとかの致命的な欠陥やノイズ等の問題もなく、音もいいので普通に使用できるかなと思っています。
音の善し悪しの判断は個人の好みの違いもあり、また回路だけで決まるものでもなく実装技術や配線材等も含めたパーツ選択も大きく影響するでしょう。音の感想はあくまで私個人の感覚に過ぎません。いずれにしても、バランス変換回路の検証や思惑どおりに小型ケースで完成できて良かったのでした。