(WE型ボリュームエキスパンダー) 2020年7月製作(完成)~備忘録~
※追記※ このアンプはエキスパンドボリュームを上げていくと超低域発振のような症状があり、当初製作から改造して対策してみましたが、完全には改善出来ていません。エキスパンドボリュームを中点未満の増幅で使えば低周波の揺れがほぼ起きない程度にはなりましたので一旦改造を中止しています。
このアンプは『MJ無線と実験』2009年1月号で征矢進氏が発表したものの習作です。同氏は半年前の2008年6月号でも「RCA型ボリュームエキスパンダー」を発表しています。当時MJ誌を愛読していて特に興味があった記事で、いつかは製作してみたいと6JX8をせっせと集めていました。既に10年以上経過していますが、自作するならと回路図(主に電源回路や実態配線図ですが)も当時書き起こしていたのでした。
ボリュームエキスパンダーは音量に合わせて増幅度を上げるもので、1930年代頃の電蓄の狭いダイナミックレンジを広げるために、RCA(D-22型)やWE(No.117-A型)がプリアンプ部に搭載した特徴的な回路のようです。今回製作したアンプのオリジナル回路は、WE No.117-A型の原回路を元に、征矢氏が3極7極複合管を使ってコンパクトに再設計したものです。なお、山川正光氏の『内外真空管アンプ回路集』によれば「元々はWE No.116-B型というミキサーアンプを搭載したボリュームエキスパンダー回路のアンプ全体をNo.117-A型と呼ぶ」のだそうです。
征矢氏はRCA型回路とWE型回路の比較もされていて興味深いのですが、今製作ではよりベターかなと思われたWE型の回路を採用しています。単体での使い方は、ラインアンプと同様にCDプレーヤー等の音源とアンプの間に接続して、ダイナミックレンジを拡大する装置として利用します。ボリュームエキスパンダーは浅野勇氏の『魅惑の真空管アンプ』でも紹介されており、(RCA型ですが) 2A3プッシュプルアンプの製作例に組み込まれてますね。
回路図や実態配線図は、当時作成のものから今回使用するシャーシケースや手持ちパーツに合わせて改訂しました。一般的な真空管ラインアンプに比べて部品数が多く、また、回路も特殊なので少し作りづらいところがありましたが、大きな問題も無くすんなり完成しました。音質は広帯域で自然なエキスパンド効果が得られる良音です。ハムノイズ等も全く無く音も気に入りましたので、しばらくはラインアンプ代わりにエキスパンダー効果を楽しんでみるつもりです。
[ オリジナル回路 ] [ 回路図 ] [ 実態配線 ] [ レイアウト ] [ パーツリスト ]
[ 当初回路図 ] [ 当初実態配線 ] ←改造前のものです
真空管データシート [ 6JX8/ECH84 ] [ 5965 ] [ 12AV7 ] [ 6829 ] [ ECH81 ]
※パーツリストと真空管データシートはPDFファイルです。
アンプ部回路
アンプ部の回路は征矢氏設計のオリジナルとほぼ同じで、回路自体の変更はありませんが、手持ちパーツの関係等で一部の定数を変更しています。特にフィルムコンデンサは全て手持ち品で間に合わせました。入力コンデンサと出力コンデンサは少し大きめにして、低域時定数(カットオフ周波数)を下げました。また、ボリュームも先の製作から取り外した保有品の関係で50kΩにしています。音量ボリュームは直列に560kΩの抵抗が入っていますし、エキスパンドボリュームもグリッドリーク抵抗に1MΩが入っているので大丈夫だろうという目論見でしたが、ややセンシティブなので100kΩの方がいいのかもしれません。なお回路図にはありませんが、2系統の出力はエキスパンダー出力または入力信号をスルーで出力する『切替スイッチ』を追加してあります。
電源部回路
オリジナルの回路図では左右chへの電源配分がわかりにくかったのですが、5965のプレート配電部分で分配していると仮定して設計を進めました。そのため回路図記載の電圧表示から所要電流も計算してみたのですが、どうもうまく合いません(実際に完成後の実測とも合わない!?)。今設計では電源部はオリジナルとは別に設計し、チョークトランスを使ったり、また左右ch電源をデカップリングして分けています。当初チャンネルあたり7mA程流れる見積もりで抵抗を計算していたので4.7kΩは3.3kΩで製作しましたが、出来上がりの左右配分電圧が220V以上になり「あれれ~?!」なのでした(;。;)。
電源トランスは手持ちの再利用なので高圧巻線の電流容量が大きめで余ってますな。B電源は200V端子からファストリカバリダイオードで全波整流し、チョークとΠ型フィルターを使った簡単な平滑回路です。チョークトランスと270μF/450V(日ケミKMR)は内部に収納スペースが無いためケース上部に設置しています。コンデンサの容量も大き目でフィルター段数も増やしていますので、ハムノイズは全くありませんでした。
ヒーター電源は0.9A(AC)の12.6V端子からブリッジ整流していますので、今回の真空管3本ではギリギリの容量です。オリジナルでは3端子レギュレータ(7812)を使っていますが、7812だとモノによっては12V出ない場合もあるので、LM317で出力電圧を設定しています。ヒーター電圧が低すぎると音が鈍るように感じます。計算では12.6V程度出る抵抗の組み合わせなのですが、実際には12.3Vの出力になりました。電流量があり降圧でLM317もかなり発熱するのでヒートシンクが必須ですね(動作確認時にかなり熱かったので当初のものから大きめなヒートシンクに交換しました)。なおヒーターバイアスは約49Vになりました。
シャーシ加工と配線
シャーシケースは色々検討したのですが、お安くあげておこうと先のラインアンプ製作で使った LEAD P-12 を再びです。板厚も薄く少しチープなケースですので、ブロンズ色の梨地というか錆目の様な感じになる塗料を使い、少しでも高級感を出そうとしたのでした(笑)。チョークトランスと270μF/450Vの4本がケース上部に剥き出しでは美しくないので、同じ横幅になる LEAD P-103 をカバーにしています。また、ケース内部には平ラグを立て易いようにアルミ板のシャーシを1枚入れていてケースとも導通しています。ソケットの丸孔は油圧パンチャーで開け、電源トランスとACインレットの角穴はジグソーでサクッと切りました。
今回は平ラグと立ラグで配線してますが、アンプ回路部の平ラグを2階建てにしているのと、電源部回路のコンデンサの高さから、ケース高さに60mmは必要でした。内部配置は丁度一杯になる程度であまり余裕はありません。立ラグの1L5Pと平ラグ10Pは真空管ソケットの取り付けネジを共用です。また、平ラグ10Pは真空管ソケットに被りますので、25mmのスペーサを立てて取り付けました。レイアウト設計では何とかなると思っていましたが、2つのボリュームが結構大きく、大柄な入力コンデンサ(AMCO)等の取り付けはギリギリでした。
実際の配線では、まずヒーターを配線して線出ししておき、次に平ラグの回路を個別に製作しました。完成後に平ラグをスペーサに固定しながら端子間を配線して繋ぐのですが、その前にソケット周りを配線して線出ししておきます。ソケット周りとアンプ部回路の平ラグを繋いだ後に、電源部の平ラグを繋ぐ順序で組み立てました。今回のアンプは部品数が多く配線もゴチャゴチャしてますので、失敗なく製作するには実態配線の設計が"キモ"ですね。設計で一番時間をかけたのも実態配線図でした。手持ちに平ラグ7Pが10枚ありましたので、これをうまく使うように部品を配置していますが、素晴らしいことに、無駄なく全ての端子を使ってピッタリ部品配置できました\(^o^)/。
いずれも当初製作時の内部です。その後改造しています。
GNDラインとシャーシアース(FG)ですが、電源部回路GNDとアンプ部回路GNDは繋がずに、2点のシャーシアースポイントで接続するようにしています。また、左右電源デカップリングのGND接続先は、それぞれのアンプ部回路GNDです。GNDラインの引き廻しはハムノイズの原因にもなりますので、回路実装では重要ですね。
シャーシケースにはフロントおよびサイドウッドを付けて装飾しました。フロントウッドの両サイドと刳り抜き部分はボーズ面でトリマー研磨し滑らかに磨きました。少しは立派に見えるかとの遊び心なのですが、夏場の作業は汗が出ますな。アガチス材を使いマホガニー色のウレタンニス塗装で綺麗に仕上がりました。まるで製品のようで少し高級感が出ましたが、アンプは見た目よりもやっぱり音でしょうかね。
点検と調整
ひととおり配線が完了したらケース内を掃除し、まずはヒーター電源の確認です。ヒーター電源回路は平ラグ7Pの一枚でピッタリ出来ています。安定化していますので、真空管を挿さずに電源を入れLEDの点灯も確認してヒーター電圧を測定しました(12.37V)。続いてB電源を配線し真空管も全部挿して電圧測定です。6JX8はいつの間にか10本ありまして、ほとんどが未使用品で4本は未開封のセロファン包装のままでした(用途が全くない球だったので開封もせずに集めてました)。特性は全部わからないので、開封されているものから2本を選びました。5965はRCAのUSED品が2本ありチューブテスターで特性測定済み。双極で特性が揃っていそうなものを挿しました。他にSYLVANIAの12AV7もNOS品が5本あるのですが、動作確認後に音質チェックする予定でした。
電源を入れヒーターの点灯を確認してしばらく様子見。何事もないようでしたので回路図を見ながら上流から各部の電圧を測定しました。結果は先に書いたように左右chへの配分電圧が予想よりも高く220V程度ありました。6JX8のカソード電圧を半固定抵抗を廻して8V近傍にも調整してみましたが、やはり電圧は高めです。抵抗値を変えてカソード電圧を下げれば電流が増えて6JX8の7極部アノード(プレート)電圧も下がるのですが、他の電圧も連動して変化します。どうにもオリジナル回路図記載の電圧バランスにならず、実測値から再度計算し直しました( →計算結果 )。
結果として、回路の電流量が当初設計では多過ぎたようで、各チャンネルあたり5.7mAとして電源平滑部の(当初)3.3kΩを4.7kΩに替えると、実測値と計算値が一致しました。幸い4.7kΩの抵抗は手持ちでありましたので抵抗1本だけの交換で済みました。若干電流が少ないように思いましたが、入力ショートでの静的な測定ですので、実際にエキスパンドボリュームと連動した運転動作になるとバイアス電圧が変化して電流も変わってきます。
6JX8のカソード電圧調整ですが、征矢氏の解説記事では半固定抵抗で8Vに合わせて、かつ、真空管(6JX8, 5965)の特性差を調整して左右バランスを合わせるとしています。しかし今製作のアンプでは、(使用する真空管の特性にもよりますが)信号入力なしの状態では最大でも Rchは8.1V、Lchは7.7V までしかカソード電圧を調整できませんでした。音声信号を入力すると、エキスパンド回路によるバイアス電圧の変化で、カソード電圧も変化しますので、一旦、左右のカソード電圧を8V程度に合わせましたが、5965の双極特性の違いもあり、実際に音楽信号を入れると左右バランスが若干ズレているようでしたので、Lchを固定しながら半固定抵抗で更にRchで微調整し左右の音量バランスを揃えました。
このWE型ボリュームエキスパンダー回路の入出力特性や歪率特性、周波数特性については、征矢氏が製作記事で解説されています。入出力特性では、エキスパンドボリューム最小でゲイン3倍(10dB)、最大で6.6倍(16.5dB)程になるようです。周波数特性は、エキスパンドボリューム位置で少し変化するようで、エキスパンドボリューム最大では低域(20Hz)で+1dBの盛り上がりがあります。この低域の持ち上げですが、動作自体は安定しているようですが、音量ボリュームを絞っていくと最小付近で音が歪むのがわかります。実際にはその音量でのリスニングはしないので問題ないですけどね。
高域はエキスパンドボリューム最大でも広帯域で、90kHzで-3dBのようです。これはカソードフォロア出力の効果で、6JX8のプレート出力に100kΩ負荷での計測では、20kHzで-3dB程度にレスポンスが低下するようです。歪率特性は、エキスパンドボリュームを少し絞ることで出力1Vまで1%を切ります。実聴でも不自然な強調がなく、広帯域で抜けの良いクリアな音質だと感じます。
マイクロフォニック?
6JX8は初めて使った球なのですが、(程度の差はありますが) 手持ちの殆どがマイクロフォニックに敏感でした。今まで使ったMT管でマイクロフォニックノイズが目立ったのはWE396Aの1~2本程度でした。今回のアンプはケース上部に真空管を出していますが、こうなるとシールドケース型のソケットにしておいた方が良かったかと思っています(持ってるんだけど今さら取り替えできないのよね~)。
取り敢えず10本の6JX8から鈍感な球で左右揃いそうなペアを挿してますが、対策としてシリコンの制振リングを付けてみる予定です。球やケース等を弾かなければ「ピーン」音はないし、楽曲信号を流せばクリアに出音していて無視できそうなのですが、スピーカー出力音にも反応してないかとか、ちょっと疑心暗鬼になりますね。
(追記)シリコン製の制振リング(渋赤)を付けてみました。何か音に締まりが出たようで(リングで締め付けてますからね;笑)、クリア感が増して少し筋肉質の音になったような気がします。特に低音は適度に締まって音場感がよくなった感じです。マイクロフォニックへの敏感度も少しは良くなっているようです(劇的には効きませんけどね)。プラシーボ効果かと思っていましたが、本当に音が良くなるようですねぇ。~しかし見た目は中華アンプ風になってきましたな(笑)~
試聴結果
出音ですが、エキスパンド量によって増幅度が変わるため、エキスパンドボリュームを増減させて聞き比べてみました。最小では温和しい音でラインアンプ代わりとしてもゲインがもう少し欲しい感じです。最大でも変なノイズや歪み感は無く、ごく自然に音が太くなって前に出てくるという感じはありますね。
音質の第一印象は「かなり良い音出るなぁ~!」でした。真空管ラインアンプは4台製作しているのですが、先の製作「12AU7カソード電流帰還ラインアンプ」と比べると、同じカソードフォロア出力でも、今回製作の方が真空管らしさがあって音が柔らかいようです。どちらも広帯域で抜けが良くクリアなのですが、カソードフォロア出力ではカッチリした(真空管らしくない)音の先入観があったので嬉しい誤算でした。
また、エキスパンド効果なのか低音がよく出るようです。低域は真空管アンプらしく程よく締まって、柔らかめですが緩いという感じではないですね。低域から中域にかけての厚み(密度感)があるため安定した音場感です。高域は繊細な解像感もあり、伸びやかで再生帯域の広さを実感できます。硬めの音質のパワーアンプと組み合わせても程よい柔らかさになり、より音楽性豊かに再生するようです。
入出力特性の直線性の良さや多過ぎない増幅量が自然なエキスパンド効果に感じるのでしょうか。RCA型の方がエキスパンド量(増幅)が大きくかかり、入出力特性も若干うねった感じになるようです。なお、小音量ではエキスパンド効果も小さいため、ある程度音量を上げた方がダイナミックで良く聞こえますね。
使用した真空管ですが、6JX8は代用品を持っていないので取り替えながら組み合わせを選別しました。5965はRCA(USED)とSYLVANIA 12AV7(NOS)を挿し替えて聴いてみました。12AV7はクリアな出音ですが、5965に比べて音の線がやや細いように感じました。その分、綺麗な響きで解像感がある印象です。NOS品なので少し使い込めば変わってくるかもしれませんね。現在は5965を所有2本から双極特性がより揃っているものを挿しています。
5965のカソードフォロア出力段は、12AV7, 6829 あるいは、12AT7や12AU7系をそのまま挿し替えて代用できます。12AU7系なら手持ちがいろいろあるので、追々実験してみようと考えています。6JX8(ECH84)は、ECH81, 6AJ8, 6I1P(6И1П), HCH81, 12AJ7で代用可能かもしれません。ただし、HCH81と12AJ7はヒーター電圧が12.6Vですので、現状のヒーター配線のままでは挿し替えはできません。ヒーター配線を変更すれば使えます。
いつの間にか集めましたねぇ。こんなに6JX8も12AV7もいりまっせん!?
このアンプは回路に興味を持って以来、10年越しでやっと製作した感慨深いものでした。使用パーツが多く回路も特殊なので、実体配線図を何度も吟味して製作に取りかかりました。幸い、すんなり完成し音も筐体デザインも気に入っていますので、取り敢えずは「目出度し、目出度し」なのでした。
と思っていたら、、、目出度くないぞ!
同じ回路を製作された方から「ウーファーコーンのおかしな挙動」の質問があり、再度チェックしてみたら、エキスパンドボリュームを上げると超低域発振(?)を起こすことがわかりました。いろいろジタバタして改造しましたが、まだ症状を完全に止めることは出来ていません。(当初の)現象的にはエキスパンドボリュームを上げていくと少しずつ発振し始めるようで、12時を超えると発振しているようなウーファーの挙動がみられます。3時以上まで上げるとモーターボーティングのノイズも確認できますが、この状態ではウーファーコーンはかなり動きが激しくて、ネットワークが少しは吸収してくれますが、スピーカーを傷めるか壊すかの心配があります。とりあえず、エキスパンド量を押さえて使えば超低域発振のような低周波の揺れは起きずクリアな音質で出音するのですが、危ないので一旦お蔵入りですな。気長に対策を考えてみます。
超低域発振の対策記録
今まで製作したアンプでは超低域発振に悩まされたことがなかったので、「ついに来たか!」の思いでしたが、この回路は雑誌掲載のものをさほど変えずに製作したので、何が悪いのか見当が付けにくく悩みました。B電源の初段管(3極部と7極部)と出力管への配電の仕方に問題があるのか、エキスパンド信号増幅段と音声信号増幅段のスタガー比(低域時定数)に問題があるのか、複合して両方で問題があるのか程度しか思いつきませんでした。
【1回目の改造】
一種のラインアンプですので流れる電流も少なく、オリジナル回路ではシンプルに全段にストレートに配電しています。まず最初にオリジナル回路にできるだけ合わせてみることにして、ボリューム2種類を100kΩに、入力コンデンサも0.1μFに換えました。さらに、B電源を初段管とカソードフォロアの出力管に配分する部分をデカップリングして分けてみました。この改造の時、超低域発振(?)なので関係ないとは思いましたが、6JX8の3極部グリッドに寄生発振止めの抵抗も追加しました。改造後、B電圧も問題ない範囲で出音もあるのですが、エキスパンド量を上げるとやはり低周波領域の発振様な揺れがあり、現象は改善しませんでした。
【2回目の改造】
電源関係に問題はないようでしたので、次は2種類の増幅部のスタガー比の変更です。6JX8の共通カソード部分のバイパスコンデンサによる低域時定数と、エキスパンド信号増幅後のフィルター回路にある低域時定数の比率ですが、3極部のエキスパンド信号増幅からのLPFでは、560kΩと0.22μFでカットオフ周波数は1.29Hz、共通カソードのバイパスコン部分は、カソード抵抗を1.7kΩ~1.8kΩとすると470μFの電解コンで0.19Hz位です。この比率が10倍以下なので不味いのかと思い、エキスパンド信号のカットオフ周波数を上げてみることにしました。
オリジナル回路の0.22μFを0.1μF(2.84Hzにカットオフが上がる)に換えてみるつもりでしたが、0.1μFの手持ちがもう無かったので、出力段とのカップリングコンのASCを取り外して使い、代わりに別の0.22μFに換えようとしました。この時まさに「弱り目に祟り目」事故があって、取り外しに難儀したASCの0.1μFの1つなのですが、リードが切れてしまいました(!)。これで0.1μFは2つ揃わず一巻の終わり!もう失敗と暑さで萎えました(泣)。入力コンデンサに取り替えたSHIZUKIの0.1μFはありましたが、この部分をAMCOの0.47μFに戻すのは、2つのボリュームの配線を一旦外してやり直さないといけないので2度もやりたくないし、そこまでの気力は既になかったのでした。
手持ちで250V耐圧以上で0.1μF以下では、AMCOの0.047μFがありましたので試してみました。カットオフ周波数が6Hz程に上がりますが、これなら軽く10倍以上の比率ですし、この際低音のエキスパンドはいりませんからッ!ということで、高さが足りない2段重ねの下段平ラグに斜めにして取り付けました。しかし、この改造でも症状は改善しませんでした。発振様な低周波の揺れまでの耐性が少し上がったかなという程度です(実際には30Hz以上にカットオフ周波数を上げるとよかったのかもです)。後はエキスパンド信号の増幅を下げるとかでしょうが、グリッドのバイアス電圧を共通カソードから取っているため、微妙なバランスの動作になるようで、もう、気持ちが萎えました(泣)。
改造後はこんな中身になりましたが、、、
【3回目の改造】
雑誌掲載の同じ回路で製作されて、同様な現象が出ている方からの検証と対策のご教示から、エキスパンド信号の取り方を変えてみました。征矢氏のオリジナル回路では入力信号から音量調整ボリュームとエキスパンドボリュームを並列に接続しているのですが、音量調整後の信号から3極部に入力してエキスパンド信号を増幅するような回路に変えました。
この変更ですと音量調整に連動しますので、過大にエキスパンド信号が入力されるのを制限できます。エキスパンド信号の増幅をどうやって音量調整と協調して下げるか思案していたのですが、この簡単な方法は盲点で気づきませんでした。この改造は簡単にできましたので、試してみたところエキスパンドボリューム中点付近までは低周波の揺れが出ない程度に改善されました。なお、7極部の増幅が下がったせいかマイクロフォニックノイズが目立たなくなりましたので、オリジナル回路では感度が高かったのかもしれません。
ただし、中点付近以上にエキスパンドボリュームを上げると波形が崩れて低周波の揺れのような現象がまだ出てきます(モーターボーティングのノイズが出るような超低域発振までは押さえられてるようです)。現状、エキスパンド信号の30Hzカットオフは入れてませんが、さらに音声増幅とエキスパンド信号の調整をするなら、560kΩと33kΩでの分圧比を変えるとかでしょうか。この部分の調整はカットアンドトライで面倒なので、取り敢えず一旦このままとして、窮屈に取り付けた0.047μFをお蔵入りアンプから外した0.1μFに替えておきました。この後はWE原回路を見直して気長に検討することにしました。
【音はどうかな?】
ということで発振対策は一旦打ち切りですが、エキスパンドボリュームを抑えて使えば低周波の揺れは出ないので、先の試聴結果で書いたようにまずまず良音なのですね。とはいえ、エキスパンド量が少ない場合は、ラインアンプとしても若干ゲインが足りないかなと思えますので、音声ボリュームをある程度上げる使い方になります。エキスパンドボリュームを抑えておけば、音声ボリュームを上げていっても発振のような挙動はありません。だけどエキスパンドボリュームを抑えて使うなら、ただの真空管ラインアンプですよね。これだけ多くのパーツを投入してるのにね。
MJ誌の製作記事では、征矢氏はオリジナル回路の安定性は確認しているとのことでしたが、同じ回路の複数の製作で同様な超低域発振のような現象がみられるのはどうなんでしょう。3極7極複合管を使うコンパクトな設計はいいのですけどね。
おまけ ~WE型ボリュームエキスパンダー VS (AD812+TPA6120A2)ラインアンプ
今回製作の「WE型ボリュームエキスパンダー」と昨年製作の「(AD812+TPA6120A2)ラインアンプ」の音質対決ですが、やはり特性面ではオペアンプやアンプICを使った回路が段違いに良いですし装置としての安定性も高いです。広帯域の再生能力も AD812 の力が大きく、緻密な分解能や雄大な音場感、音の粒立ち感やクリアさでも、後者が優っているように感じます(バランス入出力なら尚更でしょうか)。とはいっても真空管式のエキスパンド効果で音を太くし広帯域で自然な出力になるボリュームエキスパンダーも良音で(低周波の問題が無ければ)魅力的なアンプです。一般的な真空管式ラインアンプ(?)を使うなら、このWE型ボリュームエキスパンダーの方が音が良いかもしれませんね。