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情熱のかけらの記録

LM3886 (4ch) Power Amplifier ~ Monaural (4ch) / BTL (2ch) Balanced-Input

LM3886 (4ch) Power Amplifier - 電源分離2筐体パワーアンプ2020年11月製作(完成)~備忘録~

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夏の暑さが本格化してきた7月末頃、パーツ箱を整理していたら以前に購入した『LM3886パワーアンプキット(部品セット)』が未開封で8個も出てきました。購入当時は4パラとかでアンプを製作しようと思っていたのですが、筐体にするケースやパーツ集めが面倒で、電源トランスにもお金がかかるなぁと放置していたのでした。その後、TDA7498アンプやスピーカー修理改造等で遊んでいて忘れてました。少ししてお盆で帰省した長男に4セット進呈し、残りの4セットで何とかしようと製作したのが今回の4chパワーアンプです。

実は間違って購入したトロイダル電源トランスが手持ちであったので、これを使って製作できるな!と思い立ったのが事の初まり。パワーアンプは既にいろいろあるのですが、必要性はなくとも製作して音を聴いてみたいと思うのが自作厨の性というものでしょう(笑)。LM3886アンプICを使ったものは10年以上前から製作されている方も多く、定評もあるようなので今さらの感じなのですけどね。

LM3886データシートアプリケーションノート等を確認し、WEB上の先達の製作例も参考にして設計してみましたが、アンプICとキット基板を使いますのでさほど難しい回路でもなく、とりたてて工夫もないオーソドックスな回路になりました。なお、電源トランスの大きさやオペアンプ用等に別電源を考えると、4ch構成では1筐体では難しかったので、電源部とアンプ部で筐体を2つに分けました。

せっかく製作するのですから少しは特徴的にしたいと思い、今回は機械式リレーを使うのをやめて、全てMOSFETを使ったリレー回路にしました。また、4chアンプまたは2chBTL型アンプとしても使えるように、入力端子にはRCAジャックとXLRコネクタを併設しました。

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(アンプ部)
[ 入出力構成図 ] [ アンプ部回路 ] [ KITオリジナル回路 ] [ アンプ筐体レイアウト ]

(電源部)
[ LM3886電源回路 ] [ オペアンプ電源回路 ] [ 電源部筐体レイアウ ]

(実体配線図)
[ バッファアンプ回路 / Active DC Servo回路 ]

(遅延リレー回路)MOSFET使用リレー回路
[ 突入電流制限リレー回路 ] [ スピーカー保護リレー回路 ]

※回路図など一部の記述ミスを修正しました(2020/12/01)
 

アンプ部の概要

今回製作のアンプは、LM3886アンプICを使ったモノラルアンプ基板(aitendo販売)を4つ使っています。セットには部品一式が付属していましたが、使用したのは基板とアンプIC、電解コンデンサ(100μF)を1つ、電源入力の端子台だけでした。その他の必要な抵抗やコンデンサ類はオリジナル回路定数と同じか変更して、別途購入または手持ち品を使っています。アンプ機能的には、シングルエンド入力から4chアンプとして使う、あるいはXLRコネクタからの左右バランス入力で、HOT/COLD別に増幅するBTL型アンプとしても使えるようにしています。

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入力信号はボリューム(20kΩ/B)でアッテネートし、バッファアンプを通してLM3886アンプ回路に入力しています。LM3886アンプからの出力は、Zobel Filter および Isolation Filter を経由してスピーカー出力されますが、スピーカー保護リレーも接続しています。このような構成はLM3886アンプでは一般的でしょう。スピーカー保護リレーを省略している事例も多いですが、このリレー基板には簡単な出力DCオフセット検出回路も組み込んであるので、スピーカー保護の点ではより安全性の高い構成も取れるようになっています。

Zobel Filter や Isolator部の抵抗は、少し余裕がありますが巻線抵抗 (5W,±1%) を使っています。コイルは手巻きでマグネットワイヤにはポリウレタン銅線 (φ0.8) を使いました。出来上がりが約10mm径ですが、基板への取り付けで巻線の隙間ができないように厚めの熱収縮チューブを被せて固めています(隙間が空くとインダクタンスも少し下がります)。

今回の製作では、LM3886アンプ基板を2つ束ねた2パラ構成の2chアンプも、内部配線の差し替えで実験出来るようにしたのですが、出来上がりの音質評価や使い勝手で2パラ構成は封印となりました。BTL接続と4ch利用の使い分けなら入出力接続を変えるだけで簡単です。バッファアンプ基板やフィルター基板にある不要なコネクタや抵抗は2パラ実験等の名残です。

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アンプ部筐体には全部で15枚の基板が詰め込まれています。2Uタイプのケースですが左右に大きなヒートシンクもあり、全基板を平に設置するとケース内ほぼ一杯でした。電源部筐体には、2つのトロイダル電源トランス、電源回路等基板、ダイオードブリッジ、メタルクラッド抵抗、中継端子台があります。いずれのケースも底面アルミシャーシを追加して基板等を取り付けてますが、今回の製作ではネジやスペーサーを随分多く使ってしまいました。


バッファアンプ回路

バッファアンプは高い入力インピーダンスと低い出力インピーダンスにするためのバッファ回路です。ボルテージフォロアでオペアンプ(2回路)を使っていますが、2ch毎に1つの基板に分けましたので同じ回路の基板が2枚あります。回路には交流結合用にカップリングコンデンサを配置していますが、ジャンパピンでコンデンサをバイパス出来るようにしてあります。

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このためDC成分をカットしたACカップリング、またはDCカップリングを簡単に選択できるようになっています。今回の設計ではLM3886アンプの各ch毎に Active DC Servo を組み込んであり、また実際の使用に際しては、前段に自作の ラインアンプ(ヘッドホンアンプ) を接続しますので、純粋にDC構成アンプでも問題ないだろうという目論見からです。

オペアンプの入力部分にLPFを構成しているのは、当初は手持ちの LT1469-2 or LT1469 を使う予定だったので、発振防止/安定性のためです(LT1469-2は利得2以上で安定動作です。ユニティ・ゲインならLT1469の方が安定のようです)。試聴時の音質比較で OPA627(x2) 等に差し替えてみましたが、この回路のままで問題なく使えます。


LM3886アンプ基板(改造)

オリジナルの キット回路 から、今回の設計に合うようにセット付属パーツを換えたり (C1, C2)、使わないパーツ (R1, R5, C4, C5) をOPENにしたりジャンパーして改造しています。位相補償(帯域制限)の回路は基板にパターンがありませんので、帰還抵抗が付くランドを利用して、小さなユニバーサル基板をL型ピンヘッダで立てて追加改造しました。このピンヘッダを本来の抵抗取付位置に刺し、基板裏端子から Active DC Servo 基板へ配線しています。使用した抵抗は一部に±0.1%品を使いたかったので、巻線抵抗も含めて海外調達の方がお安いVishay製等をDigi-Keyで購入しました。

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オリジナル回路では、ACカップリング~LM3886で増幅~出力抵抗を経てSP出力されるのですが、アンプIC入力部にバイアス抵抗R5(帰還抵抗と同じ22kΩ)があり、R4(1kΩ)はC4(22μF)を介してGNDに繋がっていますので、DCオフセット対策としてPassive型単帰還タイプのDCサーボを構成しています。

設計当初、Active DC Servo を使わずにオリジナル回路のパーツを少し変えれば、Passive型でもある程度はDCオフセットを押さえられるかと思い、その場合の設計 (回路図) も検討してみましたが、C4のコンデンサを無極性220μF以上に取り替えるのは、基板スペース的に厳しいようなので今回の設計に落ち着きました。なお、R4とC4で低域時定数を構成しますので、オリジナルの22μFではカットオフ周波数が7.23Hzと高めですね。220μFなら0.72Hzに下がります。また、この部分のコンデンサは無極性(両極性)にすべきですね。


Active DC Servo回路

アンプキット基板に別基板で作成したActive DC Servo回路を接続しています。こういったアドオン式のやり方でどうなの?とは思いましたが、キット基板のサイズも小さく、ヒートシンクも付けなくてはならない、というわけで仕方ありません。2ch分を束ねてDC Servo基板と2段組の構成も考えましたが、ヒートシンクの既存ネジ穴の高さに全く合いませんでした。回路自体はTIのアプリケーションノートに倣ったもので、例示回路のままで組んでみました。オペアンプ(2回路)を使い2ch毎で基板を分けましたので、同じ回路基板が2枚あります。

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基板写真の被写界深度が浅くピント抜けてますな。。。

ちょっと悩ましかったのがGNDの配線でした。DC Servo基板の回路GNDは、(LM3886)アンプ基板と繋がっていないといけないわけですが、オペアンプ用の正負電源は共通なので電源ラインのGNDがバッファアンプと繋がっています。バッファアンプからは信号ラインでアンプ基板とGNDが繋がっています。いずれの基板でも回路GNDと電源GNDは共通になっているからです。

そのため、DC Servo基板の回路GNDを信号ラインと共にアンプ基板に繋ぐと小さなGNDループになります。DC Servo基板のGNDが電源ライン経由(バッファアンプ経由)でアンプ基板に繋がるので、ちょっとどうなの?と思ったのですが、GNDループを避けることを優先して現在の配線にしています。結果として、GNDに起因するハムノイズ等は皆無ですし、DCオフセットも押さえられているようなので、何とかうまくいっているようです。

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電源部回路

LM3886用の正負電源とバッファアンプ及びActive DC Servo用のオペアンプ正負電源、各種リレー基板へ配電する12VDC電源は、アンプ筐体とは別の電源筐体に分けています。実際にはアンプ部筐体側にも電源回路基板があって、協働して配電する構成になっています。

LM3886用正負電源回路

使用したトロイダル電源トランスは、1次側115VAC, 2次側2×30VAC,300VA のものです。LM3886を4つドライブするには若干物足りないのかと思いましたが、データシートの『消費電力vs出力電力』のグラフを見ると、電圧±35V/8Ω負荷で50W出力の時の消費電力が約31Wらしく、これなら「まぁ十分でしょ?」と考えた次第。また、データシートにはLM3886の最大消費電力の計算式もありました。

f:id:unison3:20201123211712j:plain (ただし Vccは全電源電圧)

今回の電源構成では、全波整流後36.5VDC/3.16Aが2系統で正負電源を構成します。36.5Vはアイドリング時の電圧ですが、このまま計算してみると73V×3.16Aで230W程度が (電源トランスのみの) 最大供給電力になります。±36.5V/8Ω負荷で上記の式を計算してみると33.74Wの消費電力ですが、今回は4chアンプ構成ですから33.74×4で約135Wとなり、8Ωスピーカー使用のモノラル4ch利用なら全く問題なしと思ったわけです。

ちなみに4Ω負荷だと最大消費電力が67.49W (±36.5V) ですから、4ch分で約270Wになり単純計算では最大供給電力をオーバーします。ただし電源コンデンサ容量が十分あれば、一般的にはトランス電流容量の2~3倍程度まで賄えると考えるようですね。このアンプの電源トランスで、最大消費電力が不足しないスピーカー(負荷) の組み合わせを単純計算すると、(1) 8Ω×4=約135W, (2) 6Ω×2+8Ω×2=約158W, (3) 6Ω×4=約180W, (4) 4Ω×2+8Ω×2=約203W,  (5) 4Ω×2+6Ω×2=約225W, (6) 4Ω×3=約203W になりますが、少なくはない容量の電解コンデンサを入れてますので、4Ω負荷での4ch駆動も実用上は問題ないでしょう。

4Ω×4ch駆動やBTL型アンプでの利用は少し注意が必要ですが、実際にはフルパワーで長時間運用することはないのです。電源の不足を感じたら、400VA以上の電源トランスに変更することも比較的簡単にできますので、とりあえずは間違い購入の電源トランスを有効利用しました。

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電源トランスの1次側を100VACで使うと2次側電圧は27VAC程度が出ます。これをショットキのダイオードブリッジで全波整流すると無負荷で37VDC以上の電圧になります。取り出せる電流は、2次側1系統あたりACで5Aですから全波整流後はDCで約3.16A (63%効率の場合) です。電源は±35V以下で十分と思っていたので(若干の電圧降下があっても)、平滑回路に抵抗を3並列にして2段のΠ型フィルターを挿入しています。合成抵抗値が低いのでフィルター効果は小さいかもしれませんが、『ネルソン・パスだって似たような電源回路にしてるじゃないかぁ~!』ということなのですよ(笑)。

電源の平滑には正負別に合計63400μFの電解コンデンサを突っ込んでいます。電源筐体側では54000μFですが、アンプ筐体側の受け基板にも9400μFあります。これだけ電源平滑のキャパシタがあると、間違ってショートすると『バチッ!』と盛大に火花が飛びますねぇ。テスト中にテスターのクリップがちょっと触れてショートしたことがあったのですが、鉄製ケースの縁が焦げました。電源フィルター容量は多めですが、平滑回路に2段のΠ型フィルターがあるので、ある程度は突入電流の緩和も出来そうに思えました。しかし安全のために簡単でも突入電流の対策をしておくことにしました。

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LM3886用電源基板2種類とGround Loop Breaker基板)

電源入力部にあるAC電源からのDC成分除去回路(DC成分サプレッサ)は、トランス鳴きと音質対策です。LM3886用に使用したトロイダル電源トランスは、電源ON後わずかに鳴き音を感じたので入れてみました(ケースの蓋を閉めれば聞こえない程度ですが)。ダイオード2個分の(順方向電圧による)除去能力ですが、DC成分サプレッサを付けると鳴きは出なくなり、音質も静寂感が増すようで効能があります。

なお、LM3886用の配電基板およびオペアンプ用の±15V配電基板のGNDラインから、シャーシアース(FG:フレームグラウンド)を引き出しています。電源筐体側にある電源回路はいずれもフローティングになっていますので、FGはアンプ部筐体のみです。FGは底面アルミシャーシに接続され、さらにリアパネルにも接続してコネクタを出しています。今回製作のアンプではLM3886用/オペアンプ用とも、それぞれ1つの電源トランスから配電されていますので、最終的には全ての回路基板のGNDは繋がっています。

また、LM3886用の配電基板からのFGの引き出しでは Ground Loop Breaker回路を挟んでみました。ループブレーカーはアースリターン回路に抵抗を追加し、循環ループ電流を非常に小さい値に減少させることでループを切断するという回路です。並列のコンデンサは電波干渉を防ぐ目的です。ダイオードブリッジは、故障電流の経路を確保するための保護回路です。ブリッジ形式を使用すると2つのダイオードが並列に接続されるため、何らかの障害時にどちらの極性の故障電流に対しても開回路になることなく処理できます。 "Even Better" な回路ですがノイズレスに仕上がっているので何か恩恵があったかもしれません。


オペアンプ用正負電源+リレー基板用単電源回路

オペアンプ用の±15VDC、リレー基板用の12VDCは、2次側15VAC/1Aが2系統出ているトロイダル電源トランスを使っています。この電源トランスは、ヘッドホンアンプ製作等でも使っている”お馴染み”の製品ですが、今回使ったのはお蔵入りアンプから取り外した中古品です。電流容量もあり構成的には贅沢なのですが、他に手持ち品で適当なものがありませんでした。

電源部筐体内では単電源15VDCを2系統のままアンプ筐体に繋いでいます。±15Vへの変換はアンプ筐体側で行っています。定電圧化はLM317を使った可変電源の2系統出力です。電源回路にはとりたてて工夫も何もないのですが、アンプ筐体側の受け基板にノイズ対策でコモンモードチョークを挟んだり、リレー基板用に12Vを取り出す系統を重複しないように分けたりにしている程度ですね。

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(オペアンプ用電源基板2種類と電源接続ケーブル)

電源部とアンプ部を繋ぐ電源ケーブルは、丸形コネクタ(7P)で電線を7本束ねています。使っているコネクタは25mm径10A容量のものですが、かなりしっかりできています(七星科学研究所/NCS-257)。JAEの7P(10A)品も手持ちであったのですが、比べてみるとレセプタクルのゴツさが違いますね。16AWGの電線も難なくハンダ付け出来る端子ですので「15Aでもいけるんでは?」と思わせます。レセプタクルが両方オスでケーブル両端がメスのコネクタなのは、特に意味は無く、1セット手持ちがあって間違って同じセットで購入しただけですね (笑)。お安いので昔から七星製のコネクタを使ってますが、ここのコネクタって自衛隊御用達なんでしょうか。


安全性に関する対策

突入電流制限回路 (Inrush Current Limiter)

Inrush Current Limiter は前作同様、電源トランスの2次側でブリッジ整流前のところにメタルクラッド抵抗と遅延リレーを使った回路を挿入しています。電源ON直後には抵抗によって少しだけ電流制限し、遅延時間後にリレーが導通して抵抗をバイパスする仕組みの単純な回路です。

遅延リレー(Power On Delay) 回路は、タイマーICにNE555Pを使っています。このリレー基板は実は最初に製作したのですが、その時は機械式リレーを使ってました。基板の試験も問題なく完了していたのですが、その後スピーカー保護リレーにMOSFETを使った回路が簡単に製作できたので、最終的にMOSFETバージョンを製作して差し替えたのでした。

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(新旧Inrush Current Limiter用リレー基板)

使用した MOSFET (FKI06075/サンケン電気) は、お値段と性能で選んでますので最高級性能というわけではありません。ドレイン・ソース間電圧が60Vでドレイン電流が52Aですので、27VAC/5Aのスイッチとして十分使えそうです。オン抵抗も低く(5.1mΩ)、高速スイッチング。ドレイン遮断電流(漏れ電流)が100μAですが Inrush Current Limiter 用ですから、ここはさほど重視しないです。逆にスピーカー保護リレーには東芝バイス製のものを使っていますが、漏れ電流が10μAと低くてベター、オン抵抗は若干高いですが許容範囲です。~何かと理屈つけてますが両方とも1つ60円という価格で選んだとも言えますけどね(笑)。

MOSFETのドライブには TLP591B というフォトボルカプラを使っています。このフォトカプラはシャント抵抗内蔵で、追加回路なしでMOSFETの高速ターンオフが出来ます。6ピンICソケットでも使えますので回路実装も単純化できて便利です(SO6パッケージでよければ制御回路内蔵の TLP3906 の方がターンオフのスイッチングが速いようですね)。メーカーの推奨動作条件では順電流20mAが標準ですが、今回の実装では(手持ちに470Ωがなかったので)、499Ωを使い約18mAと少し控え目にしています。電流制限抵抗を 470Ωに換えると約19mAになります。

NE555の使い方ですが、当初製作した 機械式リレー版 では、3番のOUT端子をリレーの電源(コイル端子)に繋ぐ使い方でした。OUT端子はトリガーとなる電源ONでHigh、タイマー後にLowになります。ワンショットモードのリレードライブはこういう使い方をするものなのかと、ちょっと違和感があったのと MOSFET版 では使いにくいので、7番のDCH端子をフォトボルカプラ電源のマイナス側としています。DCH端子は内部ではオープンコレクタになっているようで、タイマー後にGNDに接続されることで電流が流れるというスイッチに使えますね(555内部回路)。なお、 Inrush Current Limiter 用のOn Delay (遅延時間) は約4秒にしています。スピーカー保護リレーのOn Delayが約5秒なので、これよりも少しだけ短い時間でLimiterを解除したかったためです。


スピーカー保護リレー回路

今回製作したスピーカー保護リレーは、高速ミュート制御部とMOSFET利用による電子スイッチ、出力DCオフセット電圧検出回路で構成されています。基板は2ch毎に分けましたので同じ回路で2枚あり、他のステレオアンプ等にも流用しやすくなっています。高速ミュート制御部は、ヘッドホンアンプの製作でも利用していた『サイレントミュート回路』をディスクリートで製作したものですが、フォトカプラのドライブ用に元々の回路から少しだけ変更しています。このミュート回路は電源OFF時には超高速に動作し、LM3886のシャットダウンより速くスピーカーを切り離します。

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MOSFETのドライブは、Inrush Current Limiter 同様に TLP591B フォトボルカプラを使っていますので実装はとても簡単です。使用した MOSFET (TK40A06N1東芝バイス) は、ドレイン・ソース間電圧が60Vでドレイン電流が最大60A、漏れ電流が10μA、オン抵抗8.4mΩ、高速スイッチングのものです。オン抵抗はもっと低いものもありますがお値段は高くなります。漏れ電流が低いのはスピーカー保護リレー向きと選んだわけですね。C/P重視ではありますが、4ch分8個でも500円以下とお安い代わりに、ボリュームのツマミは1個600円以上だったりしますので「何だかなぁ~」ですね。

出力DCオフセットの検出回路は、トランジスタを利用したオープンコレクタ出力 (負論理) の簡単な回路です。この検出回路では ±0.6~1V程度のDCオフセットを検出するとスピーカーが切り離されるようになっています(感度調整用の抵抗は無し)。なおBTL型接続の場合は、HOT/COLD別に対GNDでのDC電圧を検出します。基板サイズの窮屈さもあって少し簡略な実装だったかもしれません。もうちょっと丁寧な回路だったら良かったかもですね。

このスピーカー保護基板では、基板上のジャンパソケットを外すことでDC検出回路を完全に無効化できるようになっています(スピーカー出力 (+/-) からの検出用4経路を全て開放します)。また、当初使っていた既製のジャンパソケットがちょっと『ヤワ』に思えたので、アンプ完成後に少し太めの電線 (20AWG) でショート用ソケットを追加製作しました。

 
ケーシングと入出力接続

アンプ部および電源部に利用したケースは、前作TDA7498アンプ同様に中古ジャンクのメーカー製アンプをオークションでお安くゲットして流用しました。大きさもあるので、それなりの立派な新品ケースを購入すれば、2つで3万円コースになり"勿体ない!"というわけです。

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流用したのは、アンプ部筐体が「SONY SRP-P4005 (4ch) パワーアンプ」、電源部筐体は「VICTOR VOSS PS-A121 モノラルパワーアンプ」です。両方とも外見が綺麗な中古品で、SRP-P4005 は4ch中2chが故障しているらしい不良品。PS-A121 は動作未確認のジャンク扱いでしたが、試してみたら正常に動作するようでした(動くとちょっと悩みますねぇ)。

結局、壊れていようが動こうが「欲しいのはケースですから!」と躊躇無くバラしてトランスや機構部品など使えそうなものだけ残しました。ちなみにアンプ電源部で使っている2つの RBV-2506 (ブリッジダイオード) はSRP-P4005の電源整流に使われていたものです。正常動作をチェックして流用しました。元々どんな風に仕上げるかと想定して、候補のアンプケースを物色していますので、フロントパネルはあまり加工しなくてもいいケースを選んでいるのですが、リアパネルは綺麗に仕上げようとすると毎度加工が手間ですね。

電源部ケースは入出力端子がAC電源コードと丸形コネクタのみですので、不要な入力端子やスピーカーターミナル等は取り外してアルミ板で塞ぎ銘板としました。このケースには8cmファンが付いていますが、とても綺麗なままでしたので、そのまま使うことにしてフロントパネルのアッテネータツマミがあった場所にトグルスイッチを付けました。電源スイッチは2極ON/OFF(15A/125V)の立派なものでしたので流用しました。大きなトロイダル電源トランスは、重量配分を考慮してケース中央部に設置。底面シャーシはアルミ板を2枚使い、中央部に円形の切り欠きの加工をしてケース底面からは10mmのスペーサーで支えています。この底面アルミシャーシを放熱板として、ダイオードブリッジとメタルクラッド抵抗を取り付けています。

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アンプ部ケースは、フロントパネルは無加工(再塗装のみ)なのですが、リアパネルはジグソーでくり抜いたりして全面加工しています。スピーカーターミナルの穴だけはそのまま利用していますが、内面にアルミ板を付けて別途購入のターミナルを取り付けています。フロントパネルにある電源スイッチは配線なしの飾りになっています。押せますけどね(笑)。

アンプ部ケースでは、使えそうなヒートシンクが付いているものを探しました。SRP-P4005 というアンプは、内部の部品や入出力端子類、ラックイヤー取付部の厚めの真鍮板とかみると「結構コストかかってるんじゃない?」という感じの立派な造りですね。ヒートシンクも変わった構造ですが大きいです。このヒートシンクですが、元々パーツの取付けがいろいろあって、M3のネジ穴が多かったのでLM3886基板をうまく取り付けできました。底面のアルミシャーシは10mmのスペーサーで支えているのですが、そこから15mmのスペーサで基板を支えると、LM3886のネジ穴がヒートシンクのネジ穴にピッタリというわけです(ピッタリになるようにLM3886TFのハンダ付けも微調整してますけどね)。

入出力の機構部品は、RCAジャックは手持ち品、XLRコネクタはオリジナルケースのものを流用しました。使用したボリュームは東京コスモスの RV-24YN20SB (20kΩ/B) です。入力端子からボリュームへの配線は単芯同軸の "Mogami 2964"、アンプ基板からSPターミナルまでの配線には "Belden 8460" を使っています。

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電源部/アンプ部のフロントパネルには、それぞれ3つのLEDを付けています。POWER(電源ON)=青、PROTECT(突入電流制限中)=赤、FAN(シャーシファンON)=黄、OPERATION(スピーカー接続)=緑です。また、両ケースのフロントパネルには少しお化粧してみました。ヘアラインシルバーのフィルム付シートに植物模様のオーナメントで飾ったラベルを印刷して貼り付けました。他にないお顔で「ちょっとカッコいい!」かもなんですけど(笑)。


動作確認

製作は個々の基板毎に行い、最後にケーシングで入出力機構部品と全基板を繋ぎ合わせる手順です。単体で試験できる基板は個別に動作試験をして完成基板としています。完成後のLM3886用電源の電圧は、アイドリング状態で±36.5V程度になりました。オペアンプの電源は、アンプ部筐体側の電源分配箇所に付けた測定ピンを使い±15.00Vになるように微調整しました。

Active DC Servo基板は、単体では導通試験程度でしたので、ケーシングして配線完了後にDCアンプ構成で出力DCオフセット電圧を測定しました。A~D系4つのLM3886アンプの結果は、オペアンプに OPA2604 を使った場合、A系が14~15mVと他より高く、B~D系は1~7mV以下に納まっていました。A,BとC,Dで2個のオペアンプ使用ですので、左右交換してみたらD系だけ15~16mVで他は7mV以下でした。最初のA系と左右交換後のD系は同じオペアンプの同系回路です。これはOPA2604の片チャンネル不良でしょうか?製造終了品で手持ちで使ってないのは2個だけなのです(泣)。

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そこでOPA604が手持ちで複数ありましたので、下駄を履かせて2回路として付けてみました。結果は、A:2.0, B:4.3, C:3.2, D: 4.6 (mV) で良好。やはり OPA2604 の1つおかしいですね。1系統だけDC Servoの効きが悪いのは気持ち悪いので OPA604(x2) を使うことにしました。ちなみに、MUSES8920に交換してみたらA~D系全て10mV以下でした。C系だけが9mV前後で若干高いのですが、他は6mV以下なので許容範囲です。何度も測り直して数値も毎回若干異なるのですが、概ねこんな結果でした。音質的には OPA604(x2) が最も良い(好みの)出音でした。

LM3886は電源電圧±35V/8Ω負荷で50W連続平均出力ですので、このアンプの出力も同程度です。BTL型で接続の場合は、理論的には出力が4倍になりますが、電源の余裕も必要ですから一般的に実効で2~3倍 (75%) 程度です。このアンプの電源構成では電流限度から、BTL (8Ω) 90W+90W 程度の連続平均出力でしょう。4Ω負荷を駆動する場合、電源トランスが供給できる電流の限度は、±35V(±36.5V)の電圧で消費電力は57.5W程度、この時の出力は25W前後のようです。電圧が高い場合は十分な電源能力が無いと効率が悪いですが、BTL型の接続で出力が4倍なら90~100W程度になります。モノラル50Wの2倍以下ですね!電源回路のコンデンサ容量を考慮すれば最大出力は150W以上出るのかもしれませんけどね。実際に (8Ω) 200W+200W の Classic Pro CP600 よりも音圧を感じます。(これって考え方合ってるのかな?)

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電源ON/OFFでのポップノイズは皆無ですし、アイドリング時のノイズも無く静かなアンプに仕上がりました。あたりまえのことなのでしょうが、TDA7498アンプ製作時のように、音はいいのに極わずかでもノイズがあるとやはり気になるものです。


音の印象など ~まさにコロナ自粛アンプの匠といえなくもない製作ですな(笑

現状ではシングルエンド入力で純粋に4chアンプ(4スピーカー駆動等)として使う予定はありませんので、ステレオスピーカー駆動を前提にしています。4chアンプで使いバイアンプ&バイワイヤリングで 2-WAY スピーカーを駆動、バランス入力でBTL型接続2chアンプとしてスピーカーを駆動、の大きく2種類の使い方を考えてますが、ACカップリングとDCカップリング、バッファアンプやActive DC Servoのオペアンプでも音質は変わってきます。

試聴構成は、TEAC UD-503(DAC)のバランス出力から "(AD812+TPA6120) ラインアンプ" を経由して、シングルエンド出力(左右2分配) またはバランス出力で本パワーアンプに接続しています。スピーカーは8Ωのものを使いました。音源はPCMの192kHzハイレゾ録音楽曲またはWAV音源を384kHzにアップサンプリングして出力したもので、前作アンプの試聴と同様です。

完成当初の音は雑味があるような、少し"ざらついた"感じがあったのですが、しばらくエイジングで鳴らし込んでいたら、とても滑らかでクリアな音に変わってきました。ACカップリングとDCカップリングでは、劇的に印象が違うわけではありませんが、やはりDCアンプで使う方がクリアで瑞々しさのようなものを感じます。ただしACカップリングでの若干のウォームさも聴きやすくて悪くないですね。ちなみに、いずれのアンプ構成でも出力DCオフセットに有意な差はありませんでした。Active DC Servoの恩恵でしょうか。

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(BTL型アンプ接続で試聴。音の良さにちょっとビックリ!)

バランス入力でBTL型アンプとして使った場合ですが、これが予想以上にいい音で第一聴ではちょっと感動しました。この方式では、DAC~ラインプリ~パワーアンプを全てバランス接続にできるのですが、ノイズレベルが低いせいか音に静けさがあります。出力の増大で音の厚みやパワー感もあるのですが、それでいてクリアで繊細な分解能もあります。音場の立体感や適度なまとまり感もあるようで、4chでのバイアンプ&バイワイヤリング駆動の方が音場は拡散して広く感じます。『Keith Jarrett - The Köln Concert』では、静寂の中にピアノの音がクリアに響き余韻が美しい。録音の良い音源だと解像感やクリア感がさらに際立ってくるようです。

設計時に±0.1%品や選別した抵抗を使うことを考えていたのは、BTL型アンプとしても使いたいためでした。今回のアンプ回路では内部に位相反転回路はありませんので、BTL型構成で利用するにはバランス出力できるDACやプリアンプ等が必要です。組み合わせるスピーカーとの相性 (制限) や使い勝手もあり、4chでのバイアンプ駆動とどちらが良いともいえないのですが、「このアンプはBTL型で使え」と言われているような気がします。暫くは接続を換えながら聞き比べてみようと思います。

バッファアンプのフォロア回路で使っているオペアンプは、当初は LT1469-2 で試聴していました。お気に入りのICで良音と思いましたが、OPA627(x2) に換えてみたら、低音がよく出て迫力ある雄大な音になりました。LT1469-2 の分解能の良さや音の立ち上がりのスピード感も素晴らしく、甲乙付けにくいのでじっくり聞き比べてみようと思っています。Active DC Servo のオペアンプは OPA604(x2) にしていますが、一段落したら他のオペアンプでも試してみるつもりです。

総じてこのアンプ (LM3886) は定評どおり音がいいですね。音質的には優等生的というか、TDA7498のような中高域の繊細な柔らかさはありませんが、硬いという程でもなく素直に音を出すなと感じます。平均点が高くて面白味がない?とも言えますが、ジャンルを問わずオールマイティに使えるのではないでしょうか。音像定位もよく、ボーカルも前に出過ぎない程度で浮いてきます。電源部をある程度しっかり作った効能なのか、出音に十分な力感があってパワー不足は全く感じませんでした。ラインプリを使ったり、バッファアンプを付けたりしていますので、純粋なLM3886の音ではないかもしれませんが素性の良さを感じます。

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スピーカー保護リレーに使ったMOSFET(電子スイッチ)の音質への影響ですが、機械式パワーリレーの場合と聴感上の違いはわかりませんでした。音質の劣化等は無いのではないでしょうか?小生の駄耳では何ら問題なしです。消費電力も少なく接点劣化や動作音もないので、静かに長期間利用できて良いこと尽くめと思うんですけどね。

今回のアンプは各基板製作までは一気に作業したのですが、基板レイアウト(設計)やケース加工で一部失敗もあり、製作が面倒になって途中で少し飽きてしまいました。その後は "ボチボチ" 作業を進めていたので完成まで2ヶ月以上かかりました。出来上がりも電源部とアンプ部で2つフルサイズケースがあるので置き場所に少し悩んでます。それでも、いい音のアンプが出来たのは喜ばしいのでした。~目出度し目出度し!