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情熱のかけらの記録

フルバランス型ヘッドホンアンプ(AD812+TPA6120A2)

(シングルエンド入出力/ライン出力対応)2019年7月製作(完成)~備忘録~

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フルバランス入出力対応のヘッドホンアンプ第3弾です。シングルエンド(アンバランス)入出力もスイッチで切り替えることが出来ます。このアンプはフェライトビーズを使った電流帰還アンプ(AD812)の動作安定性と音質確認を目的に製作したものですが、バランスおよびシングルエンドでのライン出力も追加してプリアンプ(ラインアンプ)としても使えるようになっています。

(アンプ部)
[ 回路図 ] [ ライン出力部 ] [ 電源部 ] [ 実体配線1 ] [ 実態配線2 ] [ レイアウト ]

(外部電源)
[ 回路図 ] [ レイアウト ]

前作のヘッドホンアンプではTPA6120A2を出力段に使っているのですが、だいぶ以前に初めてTPA6120を使ったヘッドホンアンプを製作した時に、同じ電流帰還のオペアンプ(ビデオ用のAD812)を前段に組み合わせたらどうなのかと考えたことを思い出し、TIの [ 参考情報 ] からフェライトビーズとの組み合わせで確認してみようと実際に製作してみました。このヘッドホンアンプ/ラインアンプは予想以上の素晴らしい音質でAD812は嬉しい驚きでした。

 
電流帰還アンプを使う

出力段の電流増幅部は前作と同じTPA6120で、2倍増幅のドライバとしてTHS4631の代わりに電流帰還アンプのAD812を使っています。また、前作では小型ケースのため組み込めなかったバランス入力のバッファ部/インピーダンス変換やZobelフィルタ、出力のアイソレータも追加しています。シングル→バランス変換も前作とは違う回路で試してみました。全体の回路が前作よりも大きくなっているため、ケースも横幅の大きなものに変更して、電源も別筐体で製作しています。

今回のアンプ回路は前作と同様な構成で若干の拡張版です。バランス型アンプといっても回路構成はシンプルです。4連ボリュームを前作までとは違うALPSの50kΩにしているのは、東京光音電波の10kΩが入手できなかったからですが、音質差がどうのというより小型ケースには筐体が少し大きかったですね。それでも、ALPSのミニデテントボリュームはギャングエラーもほぼ無いので安心して使えます。

また、バランス入力部分のLPFはバッファ部に LME49990(または LT1469)を使う予定だったので発振止めに入れてます。他の安定性の高いオペアンプなら1kΩと47pFはなくてもボルテージフォロアで安定するでしょう。

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問題のAD812ですが、TI情報を信用して一般的な(電圧帰還アンプのトポロジ)非反転増幅回路にフェライトビーズ(100MHzで1kΩのインピーダンスのもの)を挿入しただけなのです。そして、これだけで安定するかが検証目的の一つなのでした(もう一つの目的は音質です)。とはいっても単独の2倍増幅回路なのでもう少し複雑な回路で試してみればいいのかもしれないですね。

一般的に直列の抵抗がない状態で位相補償等のC(キャパシタ)を帰還パスに入れると電流帰還アンプは発振を起こします。アンプの補償が帰還インピーダンスに直接つながっているため、高い周波数ではキャパシタインピーダンスが低くなって帰還パスがショート状態になり、その結果アンプ補償が無効になり不安定になると説明されています。

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実は今回のアンプでは最初に補償C(10pF)を帰還抵抗1kΩに並列に付けて実験してみました。このような回路は電圧帰還アンプでは全く一般的なものですが、フェライトビーズが無ければキャパシタは直接帰還パスにある状態です。

実際にはフェライトビーズが帰還パスに挿入されていますので、AD812は問題なく安定しました。フェライトビーズが高い周波数でインピーダンスとなっているためです。今回のアンプはAD812を使うつもりで製作していますので、不必要なキャパシタは最終的には取り除いています(この回路ならキャパシタが無ければフェライトビーズが無くとも動作しますが、フェライトビーズによる出力ノイズの恩恵もあるようです)。

このアンプで使用したフェライトビーズは表面実装チップで村田製作所の製品(BLM18RK102SN1D) です。ゴミ(?)のように小さなパーツで1.6 x 0.8mm程ですので油断すると何処かに行方不明になりますね。実際、製作中に1つ行方不明になり、後で関係ない回路部分にくっ付いていたのを発見したのでした。


AD812のDCオフセット

AD812の2倍増幅部分では47μFのコンデンサなしで当初実験したのですが、出力DCオフセット電圧が 5~8mV ありました。AD812は入力オフセット電圧が電圧帰還アンプ等に比べてかなり高目です。データシートでも 2~5mV とありますので、調整回路やDCサーボなしで 5~8mV ならさほど悪くないかと思いましたが、入力バイアス補償抵抗を付けて8mVを超えている端子があるので、もう少し何とかならないかとパッシブ型DCサーボの単帰還タイプでコンデンサを追加しています。

本来は非反転端子(+)から帰還抵抗と同じ抵抗値でGNDにバイパスするといいのですが、1kΩでは小さいのとボリューム出力を高抵抗で受けているので入れにくい。499Ω抵抗の後に入れると-3.5dB落ちの分圧になりますし、多重帰還型にして高抵抗を帰還パス内に入れるのも電流帰還アンプでは避けたいと思ったのでした。結局(基板スペースもさほど余裕がないので)コンデンサだけ追加したのですが、これでも2~3mVの改善になっています。なお帰還抵抗1kΩと47μFでの低域時定数はカットオフ周波数で3.3Hzです。100μFのBPコンデンサもあったのですが後で追加するにはスペースが足りませんでした(220μFで0.72Hz, 100μFで1.59Hzのカットオフ周波数ですので220μF(BP)以上が望ましいのでしょうね)。

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この回路で他のオペアンプの出力DCオフセット電圧は1mV前後以下で、最終段のTPA6120でも1mV台ですのでヘッドホン側に大きくDCが漏れるということはないです。完成時のAD812とTPA6120の実測値は以下のようになりました。実測値のバラツキはオペアンプの個体差や使用パーツ(特に抵抗値)の誤差および測定器の誤差等を含みます。電源は分配点で正負電圧を微調整して合わせています。

[ 出力DCオフセット電圧(実測値)/電源電圧±14.00V ]

         Right(COLD) Right(HOT) Left(COLD) Left(HOT)
TPA6120    0.8        1.4        1.0        1.2 (mV)
AD812AN    5.6        4.4        4.7        3.4 (mV)

(追記)
AD812の電源バイパスコンデンサのうち、積セラ 0.1μF をフィルム 0.22μF (WIMA MKS2) に変更しました。また、TPA6120電源のデカップリングがステレオ左右で共通になっていましたので、左右のTPA6120正負電源それぞれにバイパスコンデンサ 0.47μF (WIMA MKS2) × 4 を追加しました(簡易電源分離)。基板上面には追加スペースが取れなかったので基板裏回路面に付けています。電源関係コンデンサの変更で、より滑らかで膨よかな音になったようです。


シングルエンド入力のバランス変換

バランス入力とシングルエンド入力を切り替えられる仕様にしているので、バランス入力とシングルエンド入力で音響パワーを合わせてバランス増幅部に入力したいのは前作(前々作)同様です。今回は前段にボルテージフォロアでバッファ部/インピーダンス変換を置いて、反転増幅回路で1/2倍の正相、逆相の変換を行っています。また前作アンプの1/2倍反転増幅と同じく、安定性のために負帰還ループに容量性負荷分離用の抵抗を含む回路にしています。

この仕様は使う音源機器の出力に合わせているのですが、バランス変換を素直にゲイン1倍(増幅0)の回路にすると、理論上HOT+COLDの出力が音響パワーで4倍相当(+6dB)になってしまいます。TEAC UD-503では、バランス出力、シングルエンド出力いずれも出力レベルを2.0Vrmsにする設定があり、またバランス出力レベルを+6dBの4.0Vrmsにも設定できるのですが、シングルエンドも同時に4.0Vrmsの出力レベルになります。結局出力レベルはバランス、シングルエンドとも同じになりますので、入力を切り替えてもボリューム位置がズレないように、アンプ出力が同じ音圧になるような変換回路にしているわけです。

前作では2種類の変換回路を製作して試しているのですが、両方とも音質的に満足できるものでした。今回の回路も音がいいと感じます。低域からしなやかに伸びて、高域のピーク感も無い素直な音質は反転増幅の特徴でしょうか。細かい音の分離や広がりのある音場感はバランス入力が優る感じですが、低音の量感もありバランス入力よりも若干迫力を感じます。今回は信号入力後にバッファ部/インピーダンス変換を置いているため、反転増幅への入力でも安定感があり音に不満はないですね。  

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(追記)
バランス変換用のオペアンプを LT1469 から高速版の LT1469-2 に変更してみました(SOICタイプなのに値段は1.5倍以上なのですよ!)。DIP8ピンに変換して換装しましたが発振もなくこの回路で問題なく使えます。出音自体は AD812 の音質が支配的なのですが、音の分解/分離が良くなっているのか中低音のキレや音場の広がり、音の輪郭の見通しが一段と良くなったようです(プラセボ効果?)。この構成ならバランス入力と遜色ないですね。

プリアンプ(ライン) 出力

このアンプには電源以外にスイッチが3つあります。バランス/シングルの入力切替(4極双投)、バランス/シングルの出力切替(4極双投)、そしてヘッドホン出力/ライン出力を切り替える6回路2接点のロータリースイッチです。全てのスイッチはいずれの組み合わせも可能です。

なお、入出力ラインのGNDは常に繋がって切り替えしませんし、ショーティングタイプのロータリースイッチのため、電源ONの動作状態でバランス/シングルの切り替えやプリアウトの切り替えを行ってもスイッチングによるノイズは発生しません。とはいっても安全性を考えて、電源OFF状態で入出力経路の切り替えをするようにしています。

おかげさまでスイッチ周りの結線は非常に混み合っていて、その上、配線材(MIL規格テフロン(PTFE)銀メッキ撚り線22AWG)も全て同じで色分けなしですから、パッと見てわかるのは製作者のみという意地悪になっています(笑)。-実は製作者も実体配線図を見ないとわからないんだけどね!-

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ライン出力はバランス出力またはシングルエンド出力をスイッチで取り出し、カップリングのフィルムコンデンサでDCカット後に100Ω(HOT/COLD別)の送り出しにしています。GND以外なら6回路でバランス/シングルの出力信号(左右ステレオ)を切り替えるのにピッタリです。

現状ではバランス接続できるパワーアンプがないので、シングルエンド出力でデジタルや真空管パワーアンプに入力してスピーカーを鳴らしてみました。さすがに真空管プリアンプと比べるとクリアでハイファイ的な音です。

最初の音出しから4~5時間連続で鳴らして、エージングを兼ねながら実聴チェックしました。出音は奥行きや広がりがあり、違うスピーカーかと思うほどに音場感豊かに部屋に音が満ちるようです。こういう音はスピーカーを替えないと出ないと思っていたので嬉しい驚きでした。パワーアンプダイレクトの鮮度の高い音もいいのですが、このラインアンプ経由でのクリアで膨よかな音場の広がりは臨場感もあり素晴らしい。弦楽器の響きや艶もありボーカルも前に出て浮き上がってきますので聴きやすく、音量も上げたくなります。今まで使ったメーカー製や自作真空管等のプリアンプを含めて音場感や解像感ではベストかなと思える印象で気に入りました。バランス出力ではどの程度良くなるか楽しみです。

真空管パワーアンプとの相性もいいようで、やさしく音に包まれる心地良さがあります。真空管プリアンプの音楽の雰囲気があるマッタリした音も聴きやすくていいかなとも思えますが、この辺は聴く音楽や好みもあるので、電気的な特性が段違いだからと言っても一概にどちらがいいともいえないのでしょうね。

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以前製作した396A単管ラインアンプ(長島勝氏オリジナル設計の5670単管ラインアンプの改造製作)に比べるとクリアさや分解能のよい音場の広がりはありますが、低音の出方(低い周波数からの量感ある柔らかさ)ではやや真空管に分があるかなとも思えます。また音場が広がりすぎないため、特にボーカル等の中心音源の定位がビシッと決まります。この単管アンプは簡単な回路ながら音が良いのです。

今時のオーディオではD/AコンバータやCD等音源からのライン出力も大きくなっているので、プリ(ライン)アンプ不要論が多いですが、聴き比べてみると良質でアンプやスピーカーと相性の良いラインアンプを使う意味はあるのではないかと思いますね。

(追記)
シングルエンドでのライン出力の音質向上になるかと、出力のカップリングにフィルムコンデンサ 0.047μF (MALLORY150) をパラってみました。また、シングルエンド出力変換( INA2134 )の電源バイパスコンデンサのうち、積セラ 0.1μF をフィルム 0.47μF (WIMA MKS2)に変更しました。INA2134の変換出力での若干の音の曇りが取れて低音も以前より量感が増したようです。


電源部と外部電源BOX

このアンプの電源は前作同様、別筐体の外部電源から単電源+15VDCを2系統入力し、±15Vの正負電源に変換して各オペアンプに供給する方式にしています。外部電源BOXではトロイダルトランスの2次側2系統(各15V/1A)をブリッジ整流していますので、約0.6A程度の最大供給ですがヘッドホンアンプ程度なら十分な電流容量です。

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定電圧化はLM317を使った可変電源の2系統出力です。平滑部のコンデンサはケース高さの関係で2200μFをパラにしています。外部電源回路はとりたてて工夫も何もなくケースに収まる程度です。当初はもう少し良質な電源供給として、簡単な2段階レギュレーション (LM317+TPS7A4700またはLM317+LM317の組み合わせ) も考えていたのですが、2系統の出力ではヒートシンク等を組み込むスペースが足りませんでした。

外部電源およびアンプ電源部のEMIフィルタは、外部電源とケーブル接続でDC電源を供給する方式としていることもあり、手持ちパーツが丁度あったので使ってみました。特にアンプ電源部に使っているのは大容量のブロック型で広帯域で大きな挿入損失特性が得られるものです。また、インダクタとコンデンサによるフィルタ構成により、スパークキラーと同様な効果も期待しました。少しは音質への寄与があるかもしれませんが、このアンプの音場感や細かい音の分離の良さは特筆ものなのです(おそらくAD812等の性能によるとは思いますが)。

アンプ電源部は、前作ではミュート回路用に別途レギュレータで12Vを取り出していますが今回は省略しています。ミュート回路で使っているリレーは10V~15Vで動作しますので(コイル定格最大18Vだが使用コンデンサが16V品)、アンプ部の電源電圧を±14V程度で使用すれば、長期使用でもさほど問題ないかなと考えたためです。

このアンプの電源電圧調整ですが、アンプ側筐体の電源部/分配箇所に電圧測定用のテストピンを3本立ててリード線を刺せるようにしてあります。このテストピンの電圧を測定しながら、電源BOXのトリマポテンショで正負電源を±14.00Vに微調整しています。

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それとどうでもいいことなんですが、今回の電源BOXのパワースイッチは、LED組み込みのプッシュスイッチにしてみました。このスイッチは定格3A/250VACでLED用に抵抗を内蔵していて、その定格電圧は12Vらしいです。そのためトランス2次側の1系統は整流平滑後の約20.5Vを分圧してLED電源にしています。LEDは電流駆動なので20Vでも光ると思いますが不明な電流制限抵抗が小さいと切れるかもと心配しての回路です。分圧(分流)はあまり良くないのですがうまく光ってくれました。単純に5kΩとかの電流制限抵抗を挿んだだけでもよかったかもとは思っています。このLED発光付きスイッチなんですが、これが黒色ケースにマッチして感動的に綺麗なんです!中華製らしいですがなかなかいいです。ちょっとだけ惜しいのは、(電源スイッチでは一般的ですが)単極ON-ONの構造なんですね。両切りや応用もできる2極ON-ON(OFF)だったら文句なしなんですけどね。


音の印象など

(バランス出力)
出音はストレートで伸びやか、特に高域はどこまでも突き抜けていくようでありながら雑味や音像の破綻がありません。また静けさもあり鮮度の高いクリアな音は音場感が豊かです。THS4631に比べても細かな音が全帯域で粒立ちよく出て奥行きや広がりを感じます。それでいて中域の厚みもありボーカルも前に出て浮き上がってきます。低域は量感が特別に豊富という程ではありませんが、適度に締まって十分な音圧がありモニタータイプのAKG K702でも全く不足を感じません。また中域に被って曇らせるようなこともないようです。全帯域で誇張部分がなくフラットでワイドレンジを感じさせる音です。

THS4631は適度な音場の広がりと緻密な分解能や音の厚みなど素晴らしいのですが、小編成クラシックやピアノライブ、ジャズボーカル、スムースジャズ等はAD812の方が臨場感があるように思えます。THS4631とAD812では若干異なる音質なのですが、それぞれ他のオペアンプに比べて圧倒的な良さがあって甲乙つけがたいですね。

回路全体の印象としては、出力段(TPA6120)のドライブ能力の高さや出力の余裕のせいか、音圧レベルの強弱による破綻がなくAD812の広帯域再生能力の高さを感じます。バランス入力でのLME49990(バッファ部)およびシングルエンド入力のLT1469-2(バランス変換)による分解能の良さも、後段AD812との相性で効果的な組み合わせになっているように思えます。前々作のTHS4631ドライブによる差動増幅型アンプとは出音の感じがやや異なる印象なのですが、優るとも劣らない良音です。私的には3台製作したバランス型ヘッドホンアンプのうちでは、音質やラインアンプの機能も含めてベストかなと思っています。

(シングルエンド出力)
シングルエンド(アンバランス)出力は INA2134 で変換しています。バランス出力に比べて音の粒立ち(分離感)や左右セパレーションがわずかに違うかな程度で音質に不満はありません。量感のある低音から芳醇で伸びやかな中高音は、HOTとGNDを使った簡易なシングルエンド出力とは一線を画す高音質です。
ただし、このアンプの回路構成では出力切替スイッチの挿入位置がミュート回路の後のため、INA2134 の出力とヘッドホンが直結状態になって、電源オフ時の即断ミュートが完全には効かず、わずかにポップノイズが出ます(シングルエンド出力用のミュート回路をケチった報いですな)。シングルエンド出力にもミュート回路を組み込んだ「改良版回路」も検討してみたので、いつか改造か電源組込型で製作をしたいと思っているのですが、手間を考えると億劫でいつになるやらです。

このアンプ回路でバランスまたはシングルエンドの信号入力/出力方式を決め打ちで絞れば、切替スイッチの省略等で信号経路の接点を減らし音質の向上を図ることもできると思いますが、現状では機能と使い勝手優先なのです。また(外部)電源回路の工夫で、より良質の電源供給を行うようにすればさらに音質も向上すると思います。

 なお、音の確認ではバランス改造した AKG K702 (62Ω), beyerdynamic DT990 PRO (250Ω) , Sennheiser HD598SE (50Ω), SHURE SRH840 (44Ω) 等を主に使いました。音源はPCMの192kHzハイレゾ録音楽曲、およびCDリッピングしたWAV音源を384kHzにアップサンプリングして出力したものを試聴しています。

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AD812は電流帰還アンプですが、適度なフェライトビーズを挿入するだけで、電圧帰還アンプのトポロジーで簡単に安定するようです。少し拍子抜けではありますが勉強になりました。初めてAD812を使いましたが安定すれば発熱もなく、フェライトビーズの効能もあり特性上のノイズレベルも良好なようです。前作2台のバランス型ヘッドホンアンプと同様、このアンプも無信号時の聴感上のノイズは皆無で全くの無音です。AD812は音も素晴らしくお気に入りアンプになりました。

ちなみに、この回路のままでAD812を電圧帰還アンプに差し替えても動作可能でした。手持ちのオペアンプでは、NE5532, MUSES 8920, MUSES 8820, LT1469, OPA2134, OPA2604, OPA627(x2), OPA637(x2)、そして THS4631(x2) も発振せずに動作するようです。

単独の非反転2倍増幅回路ですので、多くのオペアンプでリファレンス的回路でもあり安定しやすいのでしょう。THS4631の評価モジュールでも標準回路は2倍の非反転増幅回路(CF=0)です。ただし、短時間の動作確認で厳密に安定度を測定してはいませんし、フェライトビーズの特性が個々のオペアンプで(特に高周波領域のインピーダンスが)どの程度影響するか差し替えには注意が必要でしょう。このアンプの設計段階では、電圧帰還アンプと差し替え可能にするためにフェライトビーズをパスするジャンパピンを立てることも検討しましたが、AD812に期待していましたので結局そのようなギミックは止めたのでした。

なお、LME49990(x2) だけは発振気味で少しノイズがありましたので補償が必要なようです。このオペアンプは音は良いのですが、安定しにくい上に入力バイアスも大きく面倒くさいアンプですね。手持ちのは丁寧にデュアル化加工したもので、もったいないのでバランス入力のバッファ部で使っています。LME49990は発振しなければさほど熱くなりません。かなり発熱している場合は発振している可能性が高いですね。

電圧帰還アンプですと、THS4631以外ではやはりOPA627, OPA637がいい音出しますね。低域の量感や繊細な高域と音の密度感もあって聴きやすい。ただOPA637は高域が繊細に伸びるのですが、ボーカルでは少しサ行が刺さる感じもあります。

これら電圧帰還アンプとAD812との違いは、広帯域での音の分解能やクリアで粒立ちの良い音場感でしょうか。総合的な音の良さでは、THS4631以外の電圧帰還アンプを完全に凌駕している感じです。ハイエンドのヘッドホンアンプはこういう音作りじゃないかなとも思わせますね(ハイエンド?っていうモノは聴いたことがないのですけどね!?笑)。

オペアンプを使ったバランス型ヘッドホンアンプをいくつか製作してみましたが、AD812やTHS4631をうまく使うと下手なディスクリート構成アンプを凌ぐ音質を得られるように思います。なお、今回の製作はオペアンプ等を全て新規に購入したとしても3~4万円程でしょうか。実際には、最安店等を探してパーツ購入したり手持ちパーツ/オペアンプを使ってますので製作実費は2万円以下でした。